若年成人では、従来は問題視されることが少なかった、軽度の腎機能の低下であっても、その後の健康リスクが上昇することを示すデータが報告された。オタワ病院(カナダ)のManish Sood氏らの研究によるもので、詳細は「The BMJ」に6月23日掲載された。
この研究は、カナダのオンタリオ州の医療管理データを用いた後方視的コホート研究として実施された。解析対象は、2008年1月~2021年3月にeGFRが測定されており、その値が50~120mL/分/1.73m2で、腎疾患の既往のない18~65歳の地域住民870万3,871人(平均年齢41.3±13.6歳、eGFR104.22±16.1mL/分/1.73m2)。eGFRの年齢別の基準値(mL/分/1.73m2)を、18~39歳は100~110、40~49歳は90~100、50~65歳は80~90と設定すると、その下限を下回っている割合は、18~39歳では18.0%、40~49歳では18.8%、50~65歳では17.0%だった。
中央値9.2年(四分位範囲5.7~11.4)追跡し、複合アウトカム〔全死亡(あらゆる原因による死亡)、心血管イベント、腎不全〕の発生リスクを、年齢・eGFR別に比較した。その結果、以下に記すように、腎機能が20~30%程度の低下に相当するeGFR70~80でも、特に若年層において、相対的な健康リスクが高まることが明らかになった。なお、Sood氏によると、現状ではeGFRが健康な人の50%ぐらいまで低下している場合に、健康リスクの懸念が高いと判断することが多いという。
結果に影響を及ぼし得る交絡因子を調整後、18~39歳でeGFR70~80の場合、100~110の群を基準とする複合アウトカム発生リスクが42%高かった〔ハザード比(HR)1.42(95%信頼区間1.35~1.49)〕。一方、40~49歳でeGFR70~80の場合、90~100の群を基準としてHR1.13(同1.10~1.16)、50~65歳では80~90を基準としてHR1.08(同1.07~1.09)であり、いずれも有意だがハザード比は18~39歳より低値であって、相対リスクが低かった。ただし、絶対リスクに着目すると、18~39歳は1,000人年当たり4.39であり、40~49歳の9.61や50~65歳の23.4より低かった。
論文の共著者の1人である同院のGreg Knoll氏は、「幸いなことに、腎機能が軽度に低下している若年者の複合アウトカムの絶対リスクは低い。しかし、人口全体で見た場合、その影響は非常に重大なものである可能性がある」と述べている。また、「この知見を追試によって確認すること、および、腎機能が軽度に低下している状態での生活習慣の修正によって、その後の健康リスクが抑制されるかを調べる研究が必要」と付け加えている。
なお、eGFRの測定は比較的低コストではあるが、研究者らは、若年層を含めた全ての一般住民対象に定期的に測定することまでは、現時点では提案していない。とはいえ、何らかの理由でこの検査を受け、腎機能の軽度低下が示された場合には、その後の対処について医療従事者と相談したほうがよいとアドバイスしている。腎機能低下を抑制する生活習慣としては、塩分の少ない健康的な食事を取ること、習慣的に運動を行うこと、アルコール摂取を控えることなどが挙げられるという。
[2023年6月23日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら