腕の切断を余儀なくされた患者にとって、大きな進歩となる研究成果が報告された。米国、スウェーデン、オーストラリア、イタリアのエンジニアと外科医から成る国際共同研究グループが、生体工学の技術を用いて、1本1本の指を動かせる機能性の高い義手(バイオニックハンド)を開発したことを、「Science Translational Medicine」7月12日号に発表した。
失われた手足に代わるものとして最も広く使用されているのが義肢(義手、義足)である。しかし、義肢はコントロールが難しい場合が多く、動きも限定的になることがある。義肢のうち、生物学的な原理(筋肉の発する信号)を電子工学系の技術(センサー)で読み取ることで手の機能を再現しようとするバイオニックハンドでは、切断した腕に残された筋肉を使って義手をコントロールすることが選択肢として考えられる。患者は、残された筋肉を自在に収縮させられるため、収縮により電気信号を発生させることで、手を広げたり握ったりなどの指令を義手に伝えることができるからだ。しかし、肘より上からの切断など切断範囲が広い場合には、それを行うための十分な筋肉を得ることができない。
研究グループは今回、残存肢を再構成してセンサーを組み込み、残存肢の骨にインプラントを埋め込み、これらを電気的・機械的に義手と接続することで、この問題を回避することに成功した。具体的には、残存肢の末梢神経を切り離して新たな筋肉に再分布させることで増幅器とし、バイオニックハンドがより多くの情報を得られるようにした。これにより、この義手を装着した人は、ロボット関節を意のままに操ることができるようになり、義手の1本1本の指を、まるで自分の指を動かすようにコントロールできたと研究グループは説明している。
義肢は通常、切断された手足の残った部分にソケットで圧迫して固定されるものが多い。しかし、それによって不快感がもたらされ、機械的に安定しない場合がある。その代替法が、今回の研究でも用いられた、チタン製のインプラントを残っている骨に結合させる方法だ。研究グループは、このような骨への接続方法によって、より快適で効率的な義手と身体の機械的結合を実現させることができると述べている。
チャルマース工科大学生体工学教授で、生体工学・疼痛研究所(CBPR)(いずれもスウェーデン)の設立者であり所長でもあるMax Ortiz-Catalan氏は、「われわれは、神経を異なる筋肉に分布させて配線し直すことが可能であるだけでなく、それによって義手のコントロールが向上することを明らかにした」と説明する。
Ortiz-Catalan氏はさらに、「われわれの取り組みの大きな特色の一つは、改良された手術手法を臨床の現場で実践することで、手術中に神経・筋構造にセンサーを埋め込み、その後、オッセオインテグレーション(チタンと骨が結合する現象のこと)によりつながったインターフェースを介して、義手の電子システムに接続することができる可能性を秘めているという点だ。残った部分はAIのアルゴリズムが引き受けることになる」と言う。
手術はサールグレンスカ大学病院(スウェーデン)のPaolo Sassu氏が執刀した。同氏は以前、スカンジナビアで初となる手の移植手術を行った医師としても知られている。現在はリッツォーリ整形外科研究所(イタリア)に所属するSassu氏は、「われわれはCBPRの生体工学の技術者たちとともに、素晴らしい道のりをたどってきた。それによって新たな超微細手術の手法と、義手の1本1本の指のコントロールと感覚のフィードバックを得ることのできる、洗練された埋め込み型電極を組み合わせることができた」と話す。その上で、「腕の切断に苦しめられている患者たちにとって、未来はより明るいものとなるかもしれない」と話している。
[2023年7月12日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら