虫歯予防に有効な成分としてはフッ素が有名だが、フッ素に対抗できそうな成分が他にもあるようだ。ポズナン医科大学(ポーランド)総合歯科学部長のElzbieta Paszynska氏らによる研究で、歯を構成する主要な成分であるハイドロキシアパタイト入りの歯磨き粉の虫歯予防効果は、1956年以来使用されているフッ素入りの歯磨き粉と同程度である可能性のあることが示された。この研究結果は、「Frontiers in Public Health」に7月18日発表された。
この研究には関与していない専門家で、米ノースウェル・ヘルスの歯科医であるLeonard Patella氏は、「これらのデータが正しければ、フッ素よりも安全性の高いハイドロキシアパタイトを優先的に選ぶ人が出てくるかもしれない」と話す。同氏によると、フッ素の過剰摂取には毒性があり、歯にダメージを与え、歯のフッ素症(斑状歯)と呼ばれる状態を引き起こすこともあるという。
歯のフッ素症は歯のエナメル質の外観が変化する症状で、歯の形成時期に子どもがフッ素を継続的に摂取することで起こる可能性がある。米国では軽症例が多く、通常、歯の表面に白や茶の斑点が見られる程度だが、より重症例では歯の表面に小さなくぼみができることもある。Paszynska氏は、「これは極めて重要な問題だ」とした上で、「フッ素とは異なり、ハイドロキシアパタイトには高い再石灰化作用と生体適合性があり、うっかり飲み込んでしまっても安全だ。世界中の歯科医に、日常的な口腔ケアでハイドロキシアパタイトがフッ素に代わる安全で有効な選択肢となり得ることを知らせるべきだ」と話す。
Paszynska氏らは今回、18カ月間の臨床試験を実施し、ハイドロキシアパタイト入りの歯磨き粉の虫歯予防効果をフッ素入りの歯磨き粉と比較した。試験参加者の半数はハイドロキシアパタイト入りの歯磨き粉で歯磨きをする群に、残る半数はフッ素入りの歯磨き粉で歯磨きをする群にランダムに割り付けられた。いずれの群も毎日、朝と夜の食後に電動歯ブラシで歯磨きを行い、また、6カ月ごとの歯科検診も受けた。試験の実施計画を全て完了した18〜45歳の171人(ハイドロキシアパタイト群84人、フッ素群87人)を対象に解析を行った。
その結果、試験終了時点で虫歯が増えていなかった人の割合は、ハイドロキシアパタイト群89.3%、フッ素群87.4%であり、これらの歯磨き粉の効果は同程度であることが示された。ただし、ハイドロキシアパタイトが歯科医療で最も人気のあるミネラルの座をフッ素から奪えるかどうかについては、現時点では不明だ。
米南カリフォルニア大学歯学および生命科学/生体工学教授のJanet Moradian-Oldak氏は、「砂糖を取り過ぎると、細菌が糖を利用して代謝し、酸を作り出す。その酸が歯のエナメル質を溶かす。もし、口腔衛生を良好に保つことができていない、酸性の食品を食べることが多い、歯を磨いていない、歯の再石灰化速度よりも脱灰速度(歯の溶ける速度)の方が速い、などの条件が当てはまると、最終的に虫歯になる」と説明する。
Moradian-Oldak氏によると、脱灰を遅らせる作用を有するフッ素の使用は、「虫歯の進行を抑制する最も低コストの方法」だという。一方、ハイドロキシアパタイト入りの歯磨き粉はフッ素入りの歯磨き粉よりも価格が高い。また、本研究では、ハイドロキシアパタイトの虫歯予防効果は検討されているが、深い穴の開いた重症の虫歯に対する効果がどの程度であるのかについては調べられていないことにも留意しておく必要がある。
それでもPatella氏は、フッ素の使用に抵抗がある人にとって、ハイドロキシアパタイトの使用は理想的な選択肢になり得るとの見方を示す。同氏は、「フッ素は使いたくないと言う人は、フッ素の入っていない歯磨き粉を使っている。フッ素の入っていない歯磨き粉でも、歯を清潔にし、プラークを除去できるが、フッ素入りの歯磨き粉のように歯を守り、強化することはできない。そのため、特に子どもの虫歯予防においては、フッ素入りの歯磨き粉の代わりにハイドロキシアパタイト入りの歯磨き粉を使うことが、素晴らしい解決策になるのではないかと思う」と話している。
[2023年7月18日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら