糖尿病患者にとって不健康な生活習慣よりも、孤独であることの方が、予後に悪影響を及ぼすのではないかとする研究結果が報告された。米テュレーン大学公衆衛生・熱帯医学分野のLu Qi氏らの研究によるもので、詳細は「European Heart Journal」に6月29日掲載された。孤独を感じている糖尿病患者は、社会とのつながりを感じている患者に比べて、その後10年間で心血管疾患(CVD)イベントを起こすリスクが、最大26%高いという。
この研究では、英国の大規模ヘルスケアデータベース「UKバイオバンク」に登録されている糖尿病患者1万8,509人のデータが解析に用いられた。「孤独を感じることがしばしばあるか?」、「相談相手が身近にいるか?」という二つの質問で孤独レベルを評価すると、対象者の61%は孤独を感じていない(スコア0)と判定され、30%弱がスコア1であり、約9%はスコア2で強い孤独を感じていると判定された。この結果とCVDイベントリスクとの関連を、既知のCVDリスク因子であるHbA1cや血圧、LDL(悪玉)コレステロール(LDL-C)、喫煙習慣、腎機能などとともに検討した。
平均10.7年の追跡期間中に、冠動脈性心疾患(CHD)2,771件、脳卒中701件を含む合計3,247件のCVDイベントが記録されていた。結果に影響を及ぼし得る交絡因子を調整後、孤独を表すスコアが最も低い(ゼロ)の群に比較して、スコアが1の群はCVDイベントリスクが11%高く〔ハザード比(HR)1.11(95%信頼区間1.02~1.20)〕、スコアが2の群は26%ハイリスクであり〔HR1.26(同1.11~1.42)〕、有意な関連が認められた(傾向性P<0.001)。
CVDイベントリスクとの関連の強さを他のリスク因子と比較すると、関連が強い因子から順に、LDL-C、BMI、尿中アルブミン/クレアチニン比、腎機能(eGFR)に続いて、孤独が上位にランク入りした。HbA1c、収縮期血圧、喫煙、運動不足、非健康的な食習慣などは、孤独より下位だった。
この結果は、孤独がCVDリスクに直接的な影響を及ぼすことを証明するものではない。ただし、これと同様の研究結果は以前にも報告されている。米サウスフロリダ大学のTheresa Beckie氏は今回の研究には関与していないが、このトピックに関する米国心臓協会(AHA)の2022年の声明の著者陣の1人だ。その声明をまとめる段階で行われた既報研究のレビューでは、孤独や孤立した状態にあることが、CVDイベントの発生やそれによる死亡のリスクが30%高いことと関連していることが示されていた。
Beckie氏は今回の研究報告について、喫煙や運動不足よりも孤独の方がさらに、CVDイベントの脅威である可能性が示されたことに注目している。その理由について同氏は、「詳細は不明でさらなる研究が必要だが、孤独を感じている人は自分の健康に気を配ろうとしない傾向があるのではないか」と指摘している。なお、今回の研究では社会的な孤立とCVDリスクとの関連も検討されていたが、その関連は非有意だった。この点についてQi氏は、「孤立は個人が置かれた状況を示しているのに対して、孤独は個人の感じ方であるという違いによるものかもしれない」と述べている。
[2023年7月6日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら