米国では最近、早期段階のアルツハイマー病の患者にとって新たな希望となりそうな2種類の治療薬が承認された。しかし、これらの新規承認薬の恩恵を受けられる可能性のある人の多くは治療の対象外とみなされる可能性の高いことが、米メイヨー・クリニックのグループによる新たな研究で示された。この研究結果は、「Neurology」に8月16日掲載された。
米食品医薬品局(FDA)に7月に承認されたばかりのアルツハイマー病治療薬のレカネマブ(商品名レケンビ)と、2021年に承認されたアデュカヌマブ(商品名アデュヘルム)はいずれもモノクローナル抗体薬だ。論文の共著者の1人で米メイヨー・クリニック神経学分野のVijay Ramanan氏は、「新たに開発されたアルツハイマー病の治療選択肢に対して広く関心が持たれているのは当然のことだ。アルツハイマー病は深刻な疾患であるが、これまで20年以上にわたって新規に承認されたアルツハイマー病治療薬はなかったからだ」と話す。同氏は、「新しい治療薬が登場したことで、この状況から一歩前進した」とする一方で、「これらの治療薬が直面している大きな課題の一つは、臨床試験によって得られた知見を実臨床にどのように取り入れるかという点だ」と指摘する。
この問題に取り組むために、Ramanan氏らは、メイヨー・クリニック加齢研究(Mayo Clinic Study of Aging)への参加者237人(平均年齢80.9歳、男性54.9%)のデータを用いて、レカネマブとアデュカヌマブの臨床試験で用いられた適格基準をどれだけの人が満たすかを検討した。試験参加者には、軽度認知障害(MCI)または軽度認知症があり、アルツハイマー病に特徴的なアミロイドβプラークの蓄積量の増加が認められていた。
まず、レカネマブのBMIと思考力および記憶力のスコアに基づいた組み入れ基準を参加者に適用したところ、47.3%(112/237人)が条件を満たすことが示された。ここに脳卒中や心疾患、がんの既往歴、脳画像検査で確認された小さな脳出血や脳損傷の兆候などの除外基準を適用すると、治療対象患者は8%(19/237人)にまで絞られた。思考力や記憶力の検査を考慮せず、全てのMCI患者を対象にした場合でも、適格基準を満たしたのは17.4%にとどまっていた。
一方、アデュヘルムに関しては、臨床試験の組み入れ基準を満たしていた参加者の割合は43.9%(104/237人)だったが、特定の健康上の問題を有する場合などの除外基準を考慮すると、適格基準を満たした参加者の割合は5.1%(12/237人)にまで減少した。
米国では、65歳以上のアルツハイマー病患者の数は約670万人に上ると推定されている。高齢者に慢性疾患があったり脳画像検査で異常が見つかったりすることは珍しくないが、そのために高齢のアルツハイマー病患者の大半がこれらの治療薬の使用の対象外とされてしまう可能性があると研究グループは指摘している。
Ramanan氏は、「臨床試験は完璧ではないが、診断や治療のための最初のエビデンスとなるものだ」と言う。同氏によると、薬剤の適正使用は、さまざまな面でその薬剤の臨床試験と同様の条件を反映させた使い方であるべきというのが、この領域で形成されつつあるコンセンサスであるという。
今回報告された研究の付随論評の著者の1人である米バトラー病院のStephen Salloway氏は、「治療薬使用の対象となり得る患者や、それを希望している患者の多くが、実際にはその治療の適切な対象者ではない可能性があるという、臨床医にとって極めて重要な情報が、今回の研究から提供された」と解説している。また同氏は、進行したアルツハイマー病患者に対するレケンビの有効性を支持するエビデンスはないことを指摘。「患者に“ノー”と言うのは簡単ではないが、メリットがあまりなさそうな一方で一定の有意なリスクを伴う治療は、提供しないようにすることが極めて重要だ」と話す。
さらにSalloway氏は、今回の研究から学ぶべき重要なポイントについて、「患者や家族は、記憶力の低下が心配なら、まず、かかりつけ医に相談して調べてもらうべきだ。もし早期のアルツハイマー病であり、除外基準に該当しなければ、これらの治療薬の対象者となり得る。医師の方でも、治療に適した患者の選択とモニタリングを慎重に行う必要がある」と話している。
[2023年8月17日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら