がん患者の一部は、医療費の支払いに関わる書類作成などの負担に直面し、それが必要な治療を受ける妨げになっているとする研究結果を、米ペンシルベニア大学School of Social Policy and PracticeのMeredith Doherty氏らが、「Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention」に8月30日発表した。医療費の支払いに関わる事務作業の負担が大きい患者は、負担が大きくない患者に比べて、治療が遅れたり、治療を計画通りに進められない可能性の高まることが示されたという。
Doherty氏は、米国の医療システムを利用するには、患者と医療提供者、保険会社の間で一連の複雑なコミュニケーションを取る必要があり、医療費を把握し、請求ミスを修正する責任は、しばしば患者が負うことになっていると話す。同氏は、「医療と資本主義が結び付いている米国では、ヘルスケアの商品やサービスを効果的に利用し、その質を担保するために必要な知識や技術を身に付ける責任を消費者が負うことになっている。これは、医療制度としてはかなり特殊だと言える」と説明する。
今回の研究では、非営利団体CancerCareが収集した510人の米国のがん患者およびがんサバイバーの調査データを分析し、調査参加者が治療中に直面した医療費の支払いに関わる事務作業の負担と、治療の遅れや治療計画の不遵守との関連について検討した。調査では、治療の遅れや治療計画の不遵守、治療の同意や処方箋の受理、臨床検査受診の前に自己負担額を見積もる必要が生じた頻度などのほか、保険会社に補償内容を理解するために説明を求めた経験や、給付の否認に異議を唱えた経験についても尋ねられた。
分析からは、参加者の約45%が、がん治療の一環として、時々、しばしば、または常に、医療費の支払いに関わる事務作業に携わっていると回答し、そのような作業負担が大きいほど、がん治療の遅延リスクも上昇することが示された。支払いに関わる作業負担が1単位増えるごとに、治療の遅れや治療計画の不遵守が生じる頻度は32%増加していた。患者が報告した医療費の支払いに関わる作業を多い順に挙げると、処方薬の費用の見積もり(28%)、検査費用の見積もり(20%)、治療計画の費用の見積もり(20%)、保険会社への補償内容に関する問い合わせ(18%)、給付否認の異議申し立て(17%)であり、これらの全てが治療遅延のリスクの増加と関連していた。このほか、44歳以下の人は55歳以上の人よりも、また黒人は白人よりも、医療費の支払いに関わる事務作業が多く、治療遅延や治療計画の不遵守を経験する傾向が強かった。
こうした結果を受けてDoherty氏は、「このデータは、がん治療における医療費支払いのための事務作業の負担が、すでに健康格差に直面している集団に最も重くのしかかっていることを示している」と指摘する。そして、「このような負担を負っている人は、フラストレーションや疲労に加え、疎外感も感じているのではないだろうか。もし間違った請求書が送り付けられ、相手がその内容を正すのに協力しないのなら、それは自分のことなど気にかけていないと言っているのと同然だ」と話す。
この研究には関与していない、米国の医療政策シンクタンクであるコモンウェルス基金の代表を務めるJoe Betancourt氏は、「がん患者は信じられないほどのストレスを抱えており、心身ともに到底ベストとはいえない状態にあることが多い。そのような患者にとって、医療費の支払いに関わる事務作業の負担はとても大きく、率直に言って、受け入れがたいものとなる」と述べる。そして、「われわれは、慢性疾患を患い、ケアが必要な患者にかかるこのような負担を減らすよう訴えていく必要がある」と主張している。
Doherty氏は、がん患者の医療費の支払いに関わる事務作業の負担を軽減した場合に、アウトカムがどの程度改善されるかを数値化したいと話している。
[2023年9月1日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら