人間の「平熱」は37.0℃だと長らく考えられてきた。しかし、新たな研究で、体温には個人差があり、誰にでも当てはまるような平均体温というものは実際には存在しないことが明らかになった。人間の体温は、年齢、性別、身長や体重によって異なり、また1日の中でも時間帯によって変動することも示されたという。米スタンフォード大学医学部教授のJulie Parsonnet氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Internal Medicine」に9月5日掲載された。
同大学の研究グループが実施した過去の研究によると、米国人の平均体温は19世紀以来10年ごとに37.0℃から0.05℉ずつ(摂氏に換算すると0.0278℃)低下しているという。これは、健康状態や生活環境の改善により体内での炎症が抑制されるようになったことに起因すると考えられている。
現在の「人間の平熱は37.0℃」という概念は、1860年代に発表されたドイツの研究に由来する。しかしその当時でも、研究者らは、男性や高齢者の体温が女性や若年成人よりも低いことや、午後の方が体温が高いことを指摘していた。
今回の研究では、2008年4月28日から2017年6月4日の間にスタンフォードヘルスケア内の内科と家庭医療科を受診した成人外来患者の61万8,306件の診察データの分析が行われた。いずれの診察でも口腔温の測定が行われていた。研究グループは、LIMIT(Laboratory Information Mining for Individualized Thresholds)フィルタリングアルゴリズムを用いて、極端に高いまたは低い体温と関わる診断や投薬を特定して除外し、体温に関連しないデータのみを解析に用いた。また、各患者の主な診断、投薬内容、年齢、性別、身長、体重、診察の時間帯、診察が行われた月の情報を入手し、年齢、性別、身長、体重、診察の時間帯により体温がどの程度変わるのかを調べた。
LIMITフィルタリングアルゴリズムにより、35.92%の診察データが除外された。除外された診断として最も多かったのは高体温に関連する感染症(76.81%)であり、また、低体温に関連する診断として2型糖尿病が15.71%を占めていた。これにより、12万6,705人の患者(平均年齢52.7歳、女性57.35%)に関する39万6,195件の診察データが解析対象とされた。
その結果、平均体温は、アルゴリズムにかける前のデータでは36.71℃であったのが、不適切と見なされたデータの除外後には36.64℃に低下していた。体温は、男女ともに、年齢が高いほど、また身長が高いほど低くなり、体重が多いほど高くなり、また、男性は女性より平均体温が低い傾向が認められた。診察の時間帯による影響も確認され、体温は午後4時ごろに最も高くなっていた。さらに、このような体温の個人差の最大25.52%は、年齢、性別、身長、体重、診察の時間帯によるものであることも示された。このことは、本研究で検討されていない他の要因、例えば、衣服、身体活動、月経周期、測定誤差、天候、熱い飲み物や冷たい飲み物の摂取などが影響している可能性のあることを意味している。
Parsonnet氏は、このような体温に影響を与える患者ごとの要因を考慮することで、体温がより正確で有用なバイタルサインになる可能性があると話す。同氏は、今後の研究で、発熱の個人的な定義や、常に高めあるいは低めの体温が寿命に影響するかどうかを調べることも視野に入れているとし、「体温のデータは世界中に山とあるため、体温について更なる知見を得るチャンスはいくらでもある」と話している。
[2023年9月5日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら