自殺に関する大規模なゲノム研究2件を統合解析した研究により、自殺企図リスクと関連する12の遺伝子座が同定された。米ユタ大学ハンツマン・メンタルヘルス研究所の精神医学准教授であるAnna Docherty氏らによるこの研究の詳細は、「The American Journal of Psychiatry」に10月1日掲載された。この結果から、自殺の生物学的原因の理解が深まることが期待される。
Docherty氏らは、既存の大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)であるInternational Suicide Genetics ConsortiumおよびMillion Veteran Programのデータを用いて、GWASメタアナリシスを実施。解析対象には、民族的背景の多様な22集団(ヨーロッパ系15、東アジア系3、アフリカ系3、ヒスパニック・ラテンアメリカ系1)から構成される自殺企図歴のある4万3,871人(一部、自殺既遂者を含む)と、民族的背景が同じで自殺企図歴のない91万5,025人が含まれていた。
解析の結果、自殺企図リスクと関連する12の遺伝子座が同定された。また、関連する遺伝子バリアントについて、他の精神的・身体的な健康問題や行動に関する1,000を超える既発表の遺伝子データと比較したところ、自殺企図リスクは他の健康状態とも関連していることが判明した。具体的には、自殺企図リスクと関連する遺伝子バリアントは、喫煙、注意欠如・多動症(ADHD)、慢性疼痛などとも関連していた。
今回の研究から、自殺リスクは単一の遺伝子の関与として説明できるものではなく、さまざまな遺伝子の累積的な関与の結果であることが分かった。Docherty氏は、「精神疾患には小さな遺伝的要因が多数影響しており、それらを全て考慮に入れて初めて、実際の遺伝的リスクが見えてくる」と同大学のニュースリリースで解説している。
Docherty氏は、今回の研究により、「自殺の遺伝的リスクが、うつ病、心疾患など、他の多くのリスク因子とも関連していることを知ることができた。自殺は精神的な健康状態に限らず、特に喫煙や肺に関連する病気など、身体的な健康状態とも関連しているが、これらは自殺者の診療記録では必ずしも見ることができない」と述べる。その上で同氏は、遺伝情報を用いて自殺企図者の健康リスクを明らかにすることができれば、精神医療を必要とする患者を特定しやすくなると期待を寄せている。
ただし、この論文の共著者で、同大学の精神医学教授であるHilary Coon氏は、「これらの健康因子の一つでも持っている人が、自殺企図リスクが高いということにはならない。遺伝的素因に他のストレス因子が加わった場合に、リスクが高まる可能性がある」と解説している。
研究グループは、「関連する遺伝子のいくつかは、細胞のストレス応答、損傷したDNAの修復、免疫系との情報伝達に関与している。これらの遺伝子は、脳内でも高発現しており、抗精神病薬や抗うつ薬の標的として知られている」と説明。また今回の研究は、自殺と健康要因との関連性を示したに過ぎないとした上で、Docherty氏は、「自殺とこれらの健康要因に共通する生物学的背景を探求していきたい。それが、より確かな治療標的を特定する手助けになる」と述べている。
[2023年10月4日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら