猛暑日の増加で心血管疾患による死者が劇的に増加?

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/11/23

 

 夏に猛暑日が続くのが当たり前のようになりつつあるが、これから数十年のうちに米国では、暑熱に関連した心疾患や脳卒中などの心血管疾患による死者数が劇的に増加するとの予測が、米ペンシルベニア大学医学部のSameed Khatana氏らの研究で示された。この研究の詳細は、「Circulation」に10月30日掲載された。

 専門家の間では、熱波がしばしば脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患を引き起こし、その発症例は特にリスク因子を持つ人で多いことが知られている。これは、Khatana氏によると、心臓や血管(心血管系)が体温調節で中心的な役割を果たしているためだという。体がオーバーヒートすると、発汗によって熱を放出するために、心臓はより激しく働いて血液を体の末梢まで行きわたらせようとするが、脆弱な人にはそれが過剰な負荷となることがある。

 さらにKhatana氏は、「猛暑日は今後ますます増えることが予測されている」と指摘する。この事実は、米国内の人口の高齢化とより温暖な地域への人口流入の増加と相まって、暑熱に関連した心血管疾患による死者が増加するという明確なシナリオを示している。

 こうした米国の未来の姿を把握するため、Khatana氏らは今回の研究で、まず2008年から2019年までの米国の各郡における心血管疾患による死亡と猛暑日のデータを調べた。「猛暑日」は最高ヒートインデックス(体感温度の指標)が華氏90度(摂氏32.2度)以上の日とした。その結果、この期間中に猛暑日によって1年当たり平均1,651件の心血管疾患による超過死亡、つまり猛暑日がなければ避けることができた死亡が発生していたと推定された。

 次いで、この数値と今後の環境や人口の変化の予測に基づき、2036年から2065年までの期間に起こることを、温室効果ガスの排出量の増加が中程度の場合と大幅に増加する場合の二つのシナリオの下で予測した。

 その結果、まず、温室効果ガスの排出量の増加が中程度にとどまるという、より楽観的なシナリオ(1年間の猛暑日の平均が近年の54日から71日に増加すると想定)の場合でも、1年当たりの暑熱に関連した心血管疾患による死亡は平均4,320件に増加する(162%の増加)と推定された。さらに、二つ目のより悲観的なシナリオ(1年当たりの猛暑日の平均が80日に増加すると想定)の場合では、暑熱に関連した心血管疾患による死亡は1年当たり5,491件に増加する(233%の増加)と推定された。また、この問題による打撃が最も大きいと予測されるのは高齢者と黒人で、それにより、既存の心疾患に関する人種間の格差がさらに拡大すると見られている。

 これは悪い知らせといえるが、希望を抱かせる解析結果も示されている。現在提唱されている温室効果ガス削減に向けた対策を実行することで、こうした暑熱関連死の一部を回避できる可能性があるというのだ。「われわれの研究は、温室効果ガスの排出削減は効果的であり、その効果は短期間で得られることを示唆している」とKhatana氏は言う。

 今回の研究には関与していない、米国の非営利団体「憂慮する科学者同盟」の主任気候科学者のKristina Dahl氏は、「これらは全て過小評価された数である可能性が高い」との見方を示す。同氏によると、暑熱関連死は公衆衛生機関によって正式に追跡されているわけではなく、死亡記録などでも必ずしも正式な死因としては認識されていないという。

 Dahl氏とKhatana氏の両氏は、脆弱な住民を暑熱から守るために地域でできる対策として、都市部で日陰を作るために樹木を植えること、アクセスしやすく安全で人々に訪れたいと思わせる魅力を兼ね備えた「クーリング・センター(住民が涼むことのできる施設)」を作ること、熱波に備えた「ヒート・アクション・プラン」を立案することなどを挙げている。

[2023年10月30日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら