遠隔地で心停止した患者のもとに、ドローンによって自動体外式除細動器(AED)を届けることの実現可能性を示した、シミュレーションによる研究の結果が明らかになった。トロント大学(カナダ)のJamal Chu氏らによると、ドローンによるAEDの搬送で、都市部と地方のいずれにおいても、救急要請の電話からAEDが心停止患者のもとに届くまでの時間が大幅に短縮することが示されたという。この研究結果は、米国心臓協会学術集会(AHA 2023、11月11~13日、米フィラデルフィア)で発表された。
AHAによると、毎年35万件以上の心停止が病院外で発生し、その生存率はわずか10%程度に過ぎないという。しかし、心停止状態でもAEDを使って心臓に電気ショックを与えれば、何割かの人を救える可能性がある。AHAは、必要に応じてAEDの使用を組み合わせた心肺蘇生法(CPR)をただちに受ければ、生存率は3倍に上昇する可能性があると推定している。しかし、院外心停止患者のうち、バイスタンダーによってAEDが使用された人の数は依然として少ないと研究者らは指摘している。特に、地方では、タイミングよくAEDにアクセスできないことが大きな障壁となっている。
Chu氏らは今回の研究で、米ノースカロライナ州の19の郡で発生した心停止患者のもとにAEDが届くまでの時間を、ドローンのネットワークによるAED運搬と従来の救急体制である地元のファーストレスポンダー〔救急医療サービス(EMS)スタッフ、消防隊員、警察官など〕が対応した場合とで比較するためのシミュレーションモデルを開発した。解析は2013~2019年にこれらの郡で発生した8,955件の院外心停止例を対象に行われた。このうち5,754件は都市部、3,201件は地方で発生した心停止例だった。
その結果、AEDが心停止患者のもとに届くまでの時間は、従来の救急体制の場合、都市部で平均6.9分、地方で平均9.4分であった。それに対し、ドローンによるAED運搬システムが最適化された場合、この時間は都市部で4分(42%の短縮)、地方では7分(24%の短縮)となることが示された。また、全てのファーストレスポンダーがAEDを保有し、AED搭載ドローンのシステムが最適化されているという2つの条件下で、5分以内にAEDが心停止患者のもとに届く確率は、都市部では24%から77%に、地方では10%から23%に向上することも示された。
こうした結果を受けてChu氏らは、「全体として、ドローンのネットワークによって、解析した全ての郡の都市部と地方のいずれにおいても、救急要請からAED到着までの時間が有意に短縮することが示された」と結論付けている。またChu氏は、AHAのニュースリリースで、「都市部での改善度の方が地方よりも大きいことに少し驚いた。都市部に比べて地方ではEMSの対応に時間のかかることが以前から指摘されているが、われわれは、ドローンを使うことで地方での対応に要する時間が大きく短縮され、こうした不公平さを是正できるものと予測していた」と説明している。
ただし、Chu氏はこうしたドローンを用いたプログラムの導入には、「規制やインフラ、地域社会など、さまざまな面で多くの障壁がある」と指摘し、「例えば、われわれは今回、AEDが搬送された際には必ずバイスタンダーが回収して患者に使用すると仮定して解析した。しかし、そのような高いレベルでAEDを活用するには、ドローンのプログラムと地域の教育プログラムを一体化させる必要があるだろう」と述べている。
[2023年11月6日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら