ピーナツなど特定の食品にアレルギーを持つ人に対する治療用歯磨き粉の開発に向けた第1相臨床試験の結果を、米オレンジ郡小児病院(CHOC)の小児アレルギー専門医であるWilliam Berger氏らが、米国アレルギー・喘息・免疫学会年次総会(ACAAI 2023 Annual Scientific Meeting、11月9~13日、米アナハイム)で発表した。口腔粘膜免疫療法(oral mucosal immunotherapy;OMIT)と呼ばれるこの免疫療法は、医師などの専門家の監視下でアレルゲンとなっている物質を、少しずつ量を増やしながら摂取する「経口免疫療法」にひと工夫加えたもので、多くの免疫応答細胞が分布する口腔粘膜を通じた減感作を目指す。
この治療では、患者は、ピーナツタンパク質が配合された特別な歯磨き粉(以下、ピーナツ歯磨き粉)で歯を磨きさえすればよい。INT301と呼ばれるこの歯磨き粉は1回量ずつ処方され、減感作療法と同時に歯をきれいにする役目も果たす。Berger氏は、「この免疫療法では注射の必要はなく、1日1回、歯を磨くだけで投与できる便利なものだ。何かを食べる必要も準備する必要もない。ただ、いつも通り朝起きたら歯を磨くだけで良い」と説明する。
Berger氏らは同試験で、ピーナツアレルギーのある18~55歳の成人32人を、48週間にわたってピーナツ歯磨き粉を徐々に増量しながら使用する群と、プラセボを使用する群のいずれかにランダムに割り付けた。
その結果、ピーナツ歯磨き粉を使用した全ての患者で事前に設定されていた最高用量に対して一貫して忍容性を示すことが確認された。また、中等度あるいは重度の全身反応は認められず、非全身反応が生じた場合でも、そのほとんどは軽度かつ一時的な口腔内のかゆみだった。Berger氏は、「われわれが実施した試験から、極めて優れた安全性のデータが得られた」としている。さらに、試験に参加した患者のピーナツ歯磨き粉による治療の遵守率は97%で、治療を中止した患者はいなかった。こうした結果からBerger氏は、このピーナツ歯磨き粉がピーナツアレルギーの患者にとって安全で便利な治療選択肢の一つになるとの見解を示している。
この第1相試験は、ピーナツ歯磨き粉を高用量使用した場合の安全性と治療の遵守率、忍容性を評価する目的で実施された。このピーナツ歯磨き粉の製造企業は、得られた結果を米国の規制機関である米食品医薬品局(FDA)に提出し、FDAは4歳から17歳の小児患者を対象とした試験の実施にゴーサインを出した。
この研究には関与していない、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院食物アレルギー・センター長のJoyce Hsu氏は、この試験とピーナツ歯磨き粉について「興味深い」としながらも、より多くのデータとその原理の実証が必要だと話している。同氏はまた、ピーナツ歯磨き粉の製造企業にこの試験の研究者が関与していることを指摘。その上で、本試験の結果について、外部研究者による独立した検証が必要であると述べている。
Hsu氏によると経口免疫療法の相対的な有効性に関するデータが増えつつある一方、食物アレルギーに対する舌下免疫療法に関するデータも蓄積されつつあるという。舌下免疫療法とは、アレルゲンを少量ずつ摂取する代わりに、アレルゲンを含む液体を舌の下に保持して口から吸収させる方法だ。
Hsu氏は「われわれは食物アレルギーの患者の生活をより安全なものにするための新たな方法を常に探し求めているが、そのメカニズムと投与方法の両方を検証する真に優れた研究を行うことが重要だ。そして、安全性だけでなく確実に有効であることを確認することで、効果が得られない治療を行わないようにする必要がある」と話している。
なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。
[2023年11月9日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら