抗ウイルス薬のパクスロビド(一般名ニルマトレルビル・リトナビル、日本での商品名パキロビッドパック)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化予防に有効ではあるが、その反面、再発リスクを著しく高める可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。パクスロビドを投与されたおよそ5人に1人で、そのようなウイルス学的なリバウンドが認められたという。米マサチューセッツ総合病院の感染症専門医であるMark Siedner氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に11月14日掲載された。
この研究では、新型コロナウイルス検査で陽性の判定を受けたCOVID-19患者127人を対象として、ウイルス学的リバウンドの発生率を、パクスロビドによる治療を受けた患者(72人、投与群)と受けていない患者(55人、非投与群)との間で比較した。新型コロナウイルスのウイルス学的リバウンドは、1)新型コロナウイルス検査で陰性の判定後に陽性の判定が出た場合、2)ウイルス量が前回の測定値から1.0 log10 copies/mL(1mL当たりのウイルスのコピー数が10個)以上増加し、4.0 log10 copies/mL(1mL当たりのウイルスのコピー数が10の4乗個)未満であったウイルス量が、検査で2回連続して4.0 log10 copies/mL以上になった場合、と定義された。
投与群には、非投与群に比べて平均年齢と新型コロナワクチン接種率が高く、免疫抑制状態にある人が多いという特徴が認められた。新型コロナウイルスのウイルス学的リバウンドは、投与群の20.8%、非投与群の1.8%で確認された(絶対差19.0%、95%信頼区間9.0〜29.0%、P=0.001)。多変量解析では、投与群のみウイルス学的リバウンドと有意に関連することが示された(調整オッズ比10.02、95%信頼区間1.13〜88.74、P=0.038)。また、ウイルス学的リバウンドの発生率は、パクスロビドによる治療開始時期が診断と同日(0日)の場合で29.3%、診断から1日後で16.7%、2日以上後で0%と、開始時期が早いほど高いことも判明した。さらに、リバウンドしなかった患者でのウイルス排出期間(中央値)は3日であったのに対し、リバウンドが生じた患者での排出期間は14日と長かった。
Siedner氏は、「われわれの研究から、パクスロビドを投与された人の20%以上でウイルス学的リバウンドという現象が認められ、この現象が予想よりもはるかに頻繁に生じていることが明らかになった。また、リバウンドが生じた人ではウイルスの排出期間も長かった。このことは、これらの人が、COVID-19から回復後もウイルスを伝播させる可能性のあることを示唆している」と述べている。
なお、これまでの臨床試験では、パクスロビドを投与された患者の中でウイルス学的リバウンドが生じたのは1〜2%であったことが報告されている。研究グループは、この数字の違いは、過去の臨床試験が2つの時点でしか患者を評価していないことに起因する可能性があるとの見方を示す。これに対して今回の研究では、新型コロナウイルス感染から治療を経てウイルス学的リバウンドが生じるまで、患者が注意深く観察された。論文の共著者である、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJonathan Li氏は、「われわれは、週に3回、時には数カ月にわたって患者をフォローアップし、自宅でのサンプル採取を行った。ウイルスRNAレベルとウイルス培養データの両方があることで、パクスロビドを使用した患者の経験をより包括的、かつ詳細にとらえることができた」と述べている。
ウイルス学的リバウンドのリスクがどの程度のものであれ、研究グループは、パクスロビドの有用性を支持している。Li氏は、「私にとって、パクスロビドがCOVID-19重症化リスクの高い患者に対する救命薬であることに変わりはない」と話す。同氏は、「この研究は重要な情報を提供するものではあるが、パクスロビドが入院や死亡の予防に優れた効果を発揮するという事実を変えるものではない。むしろ、パクスロビドを投与された患者に関する貴重な洞察を提供する結果であり、同薬の投与後の患者の転帰を予測するのに役立つ」と話している。
[2023年11月14日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら