健康状態を把握するイヤリング型のウェアラブルデバイスThermal Earringの開発に関する研究成果が、米ワシントン大学(UW)ポール・G・アレン・スクール・オブ・コンピューター・サイエンス&エンジニアリングのQiuyue Shirley Xue氏らにより報告された。このイヤリングは、耳たぶの温度を継続的にモニタリングすることが可能であり、6人を対象にした小規模試験では、安静時の皮膚温の感知においてスマートウォッチよりも優れていることが示されたという。この研究結果は、「Proceedings of the ACM on Interactive Mobile Wearable and Ubiquitous Technologies」に1月12日掲載された。
Xue氏は、「私は健康管理のためにスマートウォッチを使っているが、多くの人がスマートウォッチはファッション性に欠け、かさばる上に着用感も良くないと感じていることに気が付いていた」と、スマートイヤリングの開発に至った背景を説明している。
「イヤリングにできるほど小さく、また頻回な充電を必要としない頑丈なウェアラブルデバイスを作ることは工学的な挑戦であった」と研究グループは振り返る。論文の共著者である米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のYujia Nancy Liu氏は、「通常、電力を長持ちさせたいのであればバッテリーを大きくしなければならないが、それではサイズが犠牲になってしまう。ワイヤレスにすることで消費電力も増える」と話す。
このような問題を乗り越えて作り出されたスマートイヤリングのプロトタイプは、縦31mm、横11.3mm、重さ335mgと、小さなペーパークリップと同等の大きさと重さで、バッテリーは28日間持つという。イヤリングには、耳に接する上部とその数センチ下の下部に、それぞれ耳たぶの体温を測定するセンサーと気温を測定するセンサーが搭載されている。下部にはBluetoothのチップとアンテナも内蔵されており、Bluetoothのアドバタイズ(Bluetooth機器がペアリング可能であることを伝える信号)を使用してスマートフォンなどのデバイスにデータを転送する。データの転送後、イヤリングは節電のためにディープスリープモードに入る。このイヤリングはまた、精度に影響を与えることなくレジンや宝石などで装飾することも可能だという。
研究グループは、このイヤリングを6人の人に着用してもらい、スマートウォッチによる測定結果と比較した。その結果、安静時の耳たぶの温度の最大標準偏差は、スマートイヤリングでは0.32℃、スマートウォッチでは0.72℃であり、前者の測定結果の方が安定していることが示唆された。
また、体温が37.8℃以上の発熱患者5人(ただし、1人は37.6℃)と平熱(37℃前後)の健康な対照者20人を対象に、室温が20〜22℃の類似した環境でスマートイヤリングによる体温測定を行った。その結果、耳たぶの温度は、発熱患者で平均35.62±1.8℃であったのに対し健康な人では29.7±0.74℃であり、スマートイヤリングを発熱患者のモニタリングに活用できる可能性も示唆された。このほか、スマートイヤリングは、食事、運動、ストレス、女性での排卵に関連した体温変化の検出にも優れていたという。
Xue氏は、「Apple WatchやFitbitのようなウェアラブルデバイスにも温度センサーが内蔵されているが、1日の平均体温しか分からない上に、手首や手の温度の測定値は排卵を追跡するにはノイズが多過ぎる。われわれは、イヤリング型のウェアラブルデバイスが、特に女性やファッションに関心のある人にとっても魅力的な選択肢となり得るかを見てみたかった」と説明している。
研究グループは、それぞれの潜在的な用途に適合するようにスマートイヤリングのアルゴリズムを訓練し、より広範なテストを行う予定である。Xue氏は、「将来的には、このイヤリングにより心拍数や活動量のモニタリングもできるようになるかもしれない」と話している。また、このイヤリングは、太陽エネルギーやイヤリングの振動により生じる運動エネルギーで駆動するようにできる可能性もあるという。
[2024年2月12日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら