他人に不平や不満をぶつけるのは怒りを抑える効果的な方法ではないようだ。米バージニア・コモンウェルス大学のSophie Kjaervik氏とBrad Bushman氏による研究で、怒りの要因を吐き出すことで、そのときは気持ちが晴れるかもしれないが、それによって怒りの感情が弱まるわけではなく、それよりも深呼吸やマインドフルネス、瞑想、ヨガなどのストレス低減法の方がはるかに効果的であることが示唆された。この研究の詳細は、「Clinical Psychology Review」4月号に掲載された。
Bushman氏は、「怒りの感情は発散させるべきという定説を打ち壊すことが極めて重要だと思う。怒りの発散は良いアイデアのように思うかもしれないが、カタルシス理論を支持する科学的根拠は一つもない」と話している。カタルシス理論とは、ネガティブな感情やストレスの発散が心理的な安定やストレスの軽減につながるという考え方だ。
Kjaervik氏らは今回、総計1万189人の参加者を含む154件の研究を対象にメタ解析を実施し、サンドバッグを殴る・蹴ること、ジョギング、サイクリング、水泳を行うといった覚醒度を高める活動と、深呼吸や瞑想などの覚醒度を低下させる活動を比較した。その結果、実験室でも実社会でも、さまざまな集団において、覚醒度を低下させる活動が怒りのコントロールに有効であることが示された。また、それとは対照的に、覚醒度を高める活動は、全般的に怒りのコントロールには全く効果がないことが明らかになった。ジョギングなどの運動も同様に興奮を高めることが示された。
ただし、どの運動が興奮を高めるかは必ずしも明確ではなかったとKjaervik氏らは説明している。ジョギングは怒りを増強させる可能性が最も高いことが示されたが、球技や体育の授業への参加は覚醒度を低下させる傾向が認められた。Kjaervik氏らは、「これらの結果は、運動に遊びの要素を取り入れることで、ポジティブな感情を高めたり、ネガティブな感情を打ち消したりすることができる可能性のあることを示唆している」と考察している。
Kjaervik氏は、今回の研究実施の背景には、最近の「レイジルーム(怒りの部屋)」の人気の高まりがあったと明かしている。レイジルームとは、怒りの感情に対処するためにコップや皿、電化製品などを破壊することができる施設だ。Kjaervik氏は、「怒りを表出することを対処法とする理論そのものを否定したかった」と話し、「われわれは、興奮を抑えること、実際にはその生理学的な側面が極めて重要であることを示したかった」と説明している。
Bushman氏はさらに、「覚醒度を高めるような運動は心臓には良いかもしれないが、怒りを抑える最も良い方法でないことは確かだ」と指摘し、「怒っている人はその感情を発散したいと思うだろうが、発散することで得られる良い気分が、実際には攻撃性を強めてしまうことがわれわれの研究で示されている。つまり、怒りを適切に対処するのは非常に難しいということだ」と述べている。
[2024年3月19日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら