腸内細菌叢の組成が、肥満や2型糖尿病、炎症性腸疾患を含む、さまざまな疾患のリスクと関連していることが明らかになってきているが、新たにコレステロール値の低下に関連している可能性のある腸内細菌が見つかった。この細菌は、心血管疾患のリスク低減というメリットをもたらす可能性もあるという。米ブロード研究所のRamnik Xavier氏らの研究によるもので、詳細は「Cell」に4月2日掲載された。論文の上席著者である同氏は、「われわれの発見は、腸内細菌叢の組成をわずかに変えることによって、心血管の健康を改善させるというアプローチのスタートラインと言えるのではないか」と述べている。
これまでの研究で、腸内細菌叢の組成が、トリグリセライド(中性脂肪)値や血糖値などの心血管疾患のリスク因子と関連のあることは分かってきている。ただし、どのような細菌がリスクを左右しているのかは明確になっていない。そこでXavier氏らはまず、米国で長年続けられている大規模疫学研究「フラミンガム研究」の参加者1,429人の糞便サンプルを用いて、腸内細菌と心血管リスク因子との関連を検討した。
その結果、Oscillibacter(オシリバクター)という腸内細菌を多く有している人は、そうでない人に比べてコレステロール値が低い傾向があることが明らかになった。また、ヒトの腸内はこのオシリバクターという細菌が驚くほど豊富であり、平均すると細菌100個に1個の割合で存在することも分かった。
続いて、オシリバクターがコレステロール値にどのような影響を与えるかを調べるために、実験室でオシリバクターを増殖させた上で研究を進めた。すると、この細菌はコレステロールを分解すること、その分解によって生じた副産物は、ほかの細菌によってさらに処理された後、体外に排泄されることが明らかになった。
オシリバクターのほかに、Eubacterium coprostanoligenes(ユーバクテリウム コプロスタノリゲネス)という腸内細菌もコレステロール値の低下に関連していることが見いだされた。この細菌は、コレステロールの代謝に関与していることが既に示されている遺伝子を有しており、オシリバクターとは異なる経路でコレステロール値を低下させると考えられた。さらに、これら2種類の細菌が、コレステロール値の低下作用を互いに高めるように働く可能性も示唆されたという。
腸内細菌は、コレステロール以外にもヒトの健康のさまざまな側面に影響を及ぼしていることが知られている。研究者らは、今回の研究でコレステロール低下の機序の一部が解明できたことで、腸内細菌がヒトの健康に及ぼす多彩な影響のメカニズムの全貌解明に結びつくのではないかと考えている。
ブロード研究所の研究者で論文の筆頭著者であるChenhao Li氏も、「腸内の細菌の相互作用がまだあまり理解されていない状況で、糞便の移植などを試みようとする研究が少なくない。できることなら、特定の細菌や遺伝子にターゲットを絞った研究を深め、その上で腸内環境の体系的な理解を試み、結果としてより良い治療戦略の確立につながることを期待している」と話している。
[2024年4月17日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら