精神疾患と心電図所見の関連については多くの研究が行われている。新たな研究として、自殺企図歴のある日本人の精神疾患患者を対象に、夜間の自殺企図と心電図の波形との関連が検討された。その結果、早期再分極を示す心電図により、夜間の自殺企図を予測できる可能性のあることが示された。東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科の亀山洋氏らによる研究結果であり、「Neuropsychopharmacology Reports」に3月17日掲載された。
早期再分極パターン(early repolarization pattern;ERP)は、心電図におけるQRS-ST接合部(J点)の上昇(スラーやノッチと呼ばれる波形)を特徴とする。ERPは男性に多く、健常人にも見られるが、精神疾患との関連が報告されており、自殺企図などの衝動性と関連する可能性も示唆されている。自殺行動は夜間の時間帯に多いことが知られているため、その危険性を事前に予測することが重要となる。
そこで著者らは、自殺企図歴があり、2015年1月から2023年1月に東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科を受診、または身体科入院中に精神神経科が介入した精神疾患患者で、心電図検査を行った人を対象とする後ろ向き症例対照研究を行い、心電図におけるERPと夜間の自殺企図との関連を検討した。全身状態が悪いなど心電図に影響が及ぶ可能性のある患者、自殺企図の時間帯が不明な患者、夜間(18時~6時)の心電図しか記録されていない患者などは対象から除外し、日中に記録された最初の心電図を用いて評価した。
評価対象者43人(男性17人、女性26人)のうち、ERPのある患者は21人(平均年齢46.9±18.7歳、男性9人)、ERPのない患者は22人(同55.7±19.1歳、同8人)だった。自殺企図が夜間に行われたのは、男性、女性のどちらも11人ずつだった。夜間の自殺企図の割合は、ERPのある患者で76.2%、ERPのない患者で31.8%だったが、この差は統計学的に有意ではなかった。
自殺企図の行われた時間帯を比較すると、ERPのある患者では早朝5時と夜間21時が最も多かった。一方、ERPのない患者では8時と14時が最も多く、早朝や夜間の自殺企図は少ないという特徴が見られた。また、心電図所見を比較したところ、心拍数、QRS間隔、QTc間隔について、ERPの有無で有意な差は認められなかった。
さらに、夜間の自殺企図との関連を検討するため、ERP、男性、50歳代を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。その結果、ERPは夜間の自殺企図に対する有意な予測因子であることが明らかとなった(オッズ比5.25、95%信頼区間1.32~20.8)。一方、男性(同2.50、0.61~10.2)および50歳代(同3.07、0.22~43.3)に関しては、夜間の自殺企図の有意な予測因子ではなかった。
以上の結果について著者らは、単一施設での後ろ向き研究であること、症例数が少なかったことなどから一般化可能性には限界があるとした上で、結論として、「ERPと夜間の自殺企図との関連が明らかになり、ERPから夜間の自殺企図を予測できる可能性が示唆された」と述べている。
[2024年5月13日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら