コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)は、エムポックス(サル痘)ウイルス(MPXV)の感染者数の記録的な増加に直面している。その背景にあるのは、2022年に欧米で感染が拡大した型のMPXVよりも致死率が高いクレード(系統群)のウイルスである「クレードI」の発生だ。米疾病対策センター(CDC)のChristina Hutson氏らは、「Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)」5月16日号に掲載された報告書で、「クレードIのコンゴでの感染拡大は、このウイルスが国外にも拡大する可能性を懸念させるものであり、ウイルスを封じ込めるためのコンゴの取り組みを全世界で協調的かつ緊急に支援することの重要性を示している」と主張している。
2年前にアフリカから欧州や北米へと広がったMPXVは、クレードIIと呼ばれるものであった。エムポックスは痛みを伴い、重症化することもあるが、死亡率は0.1~3.6%程度であることがさまざまな研究で示されている。しかし、Hutson氏らによると、クレードIのMPXVは致死率がより高く、その死亡率は1.4~10%に上るという。
コンゴで流行中のクレードIのMPXVは、すでに多くの犠牲者を出している。同国の報告によると、2023年初頭から2024年4月14日までに「複数の地方でアウトブレイクが発生」し、推定患者数は1万9,919人、死亡者数は975人に上り、患者20人当たり1人程度が死亡したと推定されている。
今回のアウトブレイクはおそらく最も広範囲に及んでおり、「2023年から2024年にかけて、26州中25州から、そして初めて首都キンシャサからもクレードIのMPXVの症例が報告された」とHutson氏らは指摘している。特に、小児はエムポックスに対して脆弱で、報告書によると「MPXVの感染が疑われる症例の3分の2(67%)と、MPXVによる死亡が疑われる症例の4分の3以上(78%)を15歳以下の小児が占めている」という。
MPXVは密接な接触を介して感染する。通常、感染には皮膚と皮膚の接触が伴うため、性行為が感染経路となることが多い。初期症状は発熱、悪寒、疲労感、頭痛、筋力低下などで、多くの場合、こうした症状の発現後に病変を伴う発疹ができ、かさぶたになって数週間のうちに徐々に治癒する。感染する可能性は誰にでもあるが、特に男性と性行為をする男性はリスクが高く、またHIV感染者は重症化しやすい。
MPXVはサルなどの動物との接触を介してヒトに感染する可能性があり、長い間アフリカの風土病であった。最近コンゴで発生したアウトブレイクに関しては、「動物宿主からの複数回にわたるウイルスの伝播がアウトブレイクに関与していることがデータから示唆された」とHutson氏らは説明している。ただ、幸いなことに、Jynneosという商品名で製造されているMPXVのワクチンがある。同ワクチンは約1カ月の間隔を空けて2回接種する。
Hutson氏らによると、CDCは長年にわたってコンゴのMPXVのアウトブレイクとの闘いを支援する取り組みを続けてきた。今回のアウトブレイクに関しては、コンゴおよびその周辺国におけるMPXVの封じ込めとともに、米国人の間にクレードIのMPXVの感染者が発生した場合の備えを強化するための取り組みも行っているという。
Hutson氏らは、「米国や、MPXVの流行が発生していない他の国では、クレードIのMPXVの症例は報告されていない」と述べている。また、米国では動物がMPXVを保有していないこと、米国の一般的な家庭ではコンゴの家庭よりも衛生状態が良好であることなどから、米国の小児がクレードIのMPXVに感染するリスクは低いと強調している。ただし、「ゲイやバイセクシュアルの男性などのハイリスク集団では、米国においてもクレードIのMPXV感染者が発生するリスクはある」と同氏らは指摘している。
[2024年5月16日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら