心臓病といえば現代生活の副産物だと思われがちだ。しかし、4,000年以上に及ぶ7つの異なる文化圏の成人のミイラのCT画像を調査した結果、3分の1以上のミイラに動脈硬化の痕跡が見つかり、心臓病が何世紀にもわたって人類を苦しめてきた疾患であることが明らかになった。米セントルークス・ミッドアメリカ心臓研究所のRandall Thompson氏らによるこの研究結果は、「European Heart Journal」に5月28日掲載された。
この研究では、世界中の成人のミイラのCT画像データを用いて、動脈硬化の有無を調べた。動脈硬化は、動脈と予測される場所にカルシウムの沈着が見られる場合を「ほぼ確実な動脈硬化」、識別可能な動脈の壁にカルシウムの沈着が見られる場合を「確実な動脈硬化」と見なした。調査対象のミイラは、古代エジプト人(161体)、低地の古代ペルー人(54体)、ボリビア高地の古代アンデス人(3体)、19世紀のアリューシャン列島のアレウト族(4体)、16世紀のグリーンランドのイヌイット(4体)、古代プエブロ族(5体)、中世のゴビ砂漠の牧畜民(4体)の7つの文化圏に由来するものに、19世紀のアフリカ系米国人(1体)とオーストラリアの先住民(1体)も加えた計237体であった。これらのミイラの死亡時の平均年齢は40±11.6歳で、58.6%(139体)が男性だった。
調査の結果、全ての文化圏に属する89体(37.6%)のミイラで「確実な動脈硬化」、または「ほぼ確実な動脈硬化」が確認されることが明らかになった。動脈硬化が認められる場所を多い順に並べると、大動脈(51体、21.5%)、腸骨-大腿動脈(49体、20.7%)、膝窩-脛骨動脈(38体、16%)、頸動脈(33体、14%)、冠動脈(9体、0.4%)であった。一方、男性と女性の間(38.1%対38.5%、P=0.36)や、エジプト人と非エジプト人(上流階級に属さない者が多い)との間(39.1%対38.5%、P=0.48)には、動脈硬化が見つかったミイラの割合に有意な差は認められなかった。
Thompson氏は、「古いものでは紀元前2,500年以前に遡る全ての時代、全ての文化圏のミイラにおいて、男女ともに、上流階級の人物であるか否かにかかわりなく、動脈硬化が認められた」とし、「これは、動脈硬化が現代の生活習慣により引き起こされる症状ではないという、われわれが以前の研究で得た知見をさらに裏付ける結果だ」と述べている。
研究グループは、「この結果は、人間には生まれつき動脈硬化のリスクがあることを示している」との見方を示している。またThompson氏は、「この研究は、喫煙、座位で過ごすことの多い生活、栄養バランスの悪い食事などの現代人の抱える心血管系のリスク因子が、加齢による自然なリスク増加に上乗せする形で動脈硬化の程度と影響を増大させる可能性があることを示している。だからこそ、コントロール可能なリスク因子をきちんとコントロールすることが重要なのだ」と話している。
[2024年5月30日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら