膵管がんの化学療法抵抗性を逆転させ得る方法とは?

提供元:HealthDay News

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公開日:2024/08/06

 

 膵臓がんは特に攻撃的で治療が難しいが、その理由の1つは化学療法に抵抗性を示すことが多いからである。しかし、米スタンフォード大学材料工学分野のSarah Heilshorn氏らが、膵臓がんで化学療法抵抗性が生じる理由と、それを逆転させ得る方法に関する研究結果を、「Nature Materials」に7月4日報告した。この研究によると、がん細胞周囲の組織の物理的な硬さが、化学療法の効果を低下させているのだという。Heilshorn氏は、「膵臓がんの大きな臨床的課題は化学療法抵抗性であるが、本研究結果は、それを克服するための今後の薬剤開発の新しい方向性を示唆するものだ」と述べている。

 本研究では、膵臓がんの90%を占める浸潤性膵管がん(pancreatic ductal adenocarcinoma;PDAC)に焦点が当てられた。PDACは膵管上皮から発生し、コラーゲン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸などを主成分とする細胞外マトリックス(extracellular matrix;ECM)の過剰な産生と硬化を特徴とする。

 実際に膵臓で何が起こるのかを解明するために、Heilshorn氏らは研究室でPDACのECMの主要な特徴を再現した硬化したマトリックスを作成し、その中で3人の膵臓がん患者のPDAC細胞に由来するオルガノイド(幹細胞を三次元で培養して得られるミニ臓器)を培養した。Heilshorn氏はこのマトリックスについて、「われわれは、がん細胞がECMの化学的シグナルや機械的性質に反応しているのではないかという考えを検証できるようなデザイナー・マトリックスを作成した」と語っている。

 その結果、これらのオルガノイドは、実際の患者のがん細胞と同様に、いくつかの抗がん薬に対して抵抗性を持つようになることが確認された。また、このような抵抗性は、高剛性の環境では、ヒアルロン酸と結合する受容体であるCD44とヒアルロン酸の相互作用が増大し、その結果、抗がん薬を細胞外に排出するトランスポーターが多く作られ、抵抗性が生じることも明らかになった。さらに、オルガノイドの培養環境を高剛性のものから低剛性に変えることで、化学療法に対する抵抗性を逆転させられることも示された。

 Heilshorn氏は、「がん細胞を、化学療法に反応しやすい状態に戻すことができることが分かった。このことは、CD44受容体を通じた硬化のシグナル伝達を破壊することができれば、患者の膵臓がんを通常の化学療法で治療できる可能性のあることを示唆している」と述べている。

 Heilshorn氏は、「がん細胞が薬物に反応するかどうかは、ECMに依存しているため、化学療法をデザインする際には、患者に関連したECMで培養をテストすべきだ」と話している。

 研究グループは、CD44受容体、およびその活性後にがん細胞で生じる一連の出来事についての調査を続けている。また、細胞培養モデルを改良し、化学療法や他のがん治療が特定の患者にどのように作用するのかを予測できるようにすることにも取り組んでいるという。

[2024年7月8日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら