大戦中の砂糖配給制の影響を胎児期に受けた人は糖尿病や高血圧が少ない

提供元:HealthDay News

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公開日:2024/12/02

 

 第二次世界大戦中と終戦後しばらく、砂糖が配給制だった時期に生まれた人には、2型糖尿病や高血圧が少ないとする、米南カリフォルニア大学(USC)ドーンサイフ経済社会研究センターのTadeja Gracner氏らの研究結果が「Science」に10月31日掲載された。2型糖尿病リスクは約35%、高血圧リスクは約20%低いという。この結果は、現代の人々が砂糖のあふれた環境によって、いかに大きな健康被害を受けているかを示しているとも言えそうだ。

 この研究では、第二次世界大戦中に英国で行われた砂糖配給制に焦点が当てられた。英国では1942年に砂糖が配給制となり、国民の砂糖摂取量は1日当たり平均40g(ティースプーンで約8杯分)となった。ちなみに、現在流通している一般的な加糖飲料の中には50gほどの砂糖が使われているものもある。英国の砂糖配給制は戦後もしばらく継続され、1953年9月になって終了した。それとともに砂糖の摂取量は平均80gへと倍増した。

 このように、配給制度下で砂糖摂取量が限られていた時期に胎児期から乳幼児期(受胎後の最初の1,000日)を過ごした人と、配給制が終了して砂糖摂取量が急増した時期に、受胎後の最初の1,000日を過ごした人とで、成人後の糖尿病や高血圧のリスクに差があるかが検討された。検討には、英国の一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータが用いられた。

 解析の結果、砂糖摂取量が少ない環境で受胎後の最初の1,000日を過ごした人は、そうでない人に比べて、2型糖尿病のリスクが約35%低く、高血圧リスクは約20%低いことが明らかになった。また、それらを発症した人の発症年齢は、前者の群で2型糖尿病については4年、高血圧については2年遅かった。この結果から、砂糖摂取量の少ない母親の子宮内環境への暴露は、糖尿病や高血圧に対する保護効果を持つと考えられた。また、出生後に固形食が始まったと思われる、生後6カ月以降に砂糖摂取量が限られていたことで、その保護効果はより強化されていた。子宮内環境のみによるリスク低減効果は、全体の約3分の1を占めていた。

 Gracner氏は、「胎児期から乳幼児期の栄養摂取の影響を調査するランダム化比較試験の実施には高いハードルがあり、かつ、50年後、60年後にその差を検証することも困難だ」と解説。その上で、「われわれは、配給制の実施と終了という社会的な変化を利用してそれらの課題をクリアし、自然実験を行った」と述べている。また、論文の共著者の1人である米シカゴ大学およびマギル大学(カナダ)のClaire Boone氏は、「この研究は、幼い頃の砂糖摂取を減らすことが、子どもの生涯にわたる健康増進に向けた強力な一歩であるという因果関係を指し示す、初のエビデンスである」としている。

[2024年11月4日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら