硬膜下血腫の再発に有効な新たな治療法とは?

転倒などにより頭部を打撲すると、特に高齢者の場合、脳の表面と脳を保護する膜である硬膜の間に血液が溜まって(血腫)危険な状態に陥る可能性がある。このような硬膜下血腫に対しては、通常は手術による治療が行われるが、8〜20%の患者では、再発して再手術が必要になる。こうした中、標準的な血腫除去術と脳の中硬膜動脈の塞栓術(遮断)を組み合わせた治療が血腫の進行や再発のリスク低下に有効であることを示したランダム化比較試験の結果が報告された。米ワイル・コーネル・メディスン脳血管外科および介入神経放射線学分野のJared Knopman氏らによるこの研究結果は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に11月20日掲載された。
Knopman氏は、「硬膜下血腫では、血腫を除去した後でも再発して再手術が必要になる可能性があるため、この結果が意味するところは大きい。特に、慢性硬膜下血腫がよく生じる高齢患者において再手術は困難を伴う」と話す。また、論文の筆頭著者である米バッファロー大学のJason Davies氏は、「よくあることだが、高齢患者がすでに抗凝固薬を服用している場合、慢性硬膜下血腫の再出血を防ぐのは特に難しい」と強調している。
Knopman氏らが今回の臨床試験で検討した治療法は、通常の血腫除去術に加え、「鼠径部などの血管から挿入したカテーテルを通じて液体塞栓物質のオニキスを中硬膜動脈に注入する方法(中硬膜動脈塞栓術)を併用するものだ。対象とされた症候性の亜急性または慢性硬膜下血腫患者400人は、この併用療法を受ける群(塞栓術群、197人)と、標準的な血腫除去術のみを受ける群(対照群、203人)にランダムに割り付けられた。主要評価項目は、治療後90日以内に再手術を要した血腫の再発または進行とした。副次評価項目は、治療後90日時点での神経機能低下とし、mRS(修正ランキンスケール)により非劣性解析(リスク差のマージンは15パーセントポイント)で評価した。
再手術を要した血腫の再発または進行が生じた患者は、塞栓術群で8人(4.1%)、対照群で23人(11.3%)であり、塞栓術群で再発や進行のリスクが有意に低いことが明らかになった(相対リスク0.36、95%信頼区間0.11〜0.80、P=0.008)。神経機能の低下は、塞栓術群で11.9%、対照群で9.8%に発生したが、リスク差は2.1パーセントポイント(95%信頼区間-4.8~8.9)であり、塞栓術群と対照群の間に有意な差は認められなかった。
Knopman氏は、「オニキスを用いて中硬膜動脈を封鎖することが治療成績改善の鍵だった」と米ワイル・コーネル大学のニュースリリースで結論付けている。同氏はさらに、「本研究は、中硬膜動脈が硬膜下血腫の形成と再発に果たす役割を示しただけでなく、これまで何十年も知られず、治療もされていなかった脳の全く新しい側面を明らかにした」と述べている。
研究グループは現在、手術するほどのサイズではない慢性硬膜下血腫の患者の治療において、最初に中硬膜動脈塞栓術を実施することの有効性について検討しているところだという。Knopman氏は、「このような患者に早期に中硬膜動脈塞栓術を行えば、後に手術が必要となる患者数を減らせる可能性がある」と述べている。研究グループは、「中硬膜動脈塞栓術は今後10年で、脳神経外科医が行う最も一般的な手術になる可能性があるため、医療費を削減し、高齢患者集団の全体的な健康状態を改善する可能性がある」との見方を示している。
[2024年11月21日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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