医師が患者の身体活動量について尋ねることは、慢性疾患の予防に役立つ可能性があるようだ。米アイオワ大学ヘルスケア医療センターの患者を対象にした調査結果から、中強度から高強度の身体活動を週に150分以上というガイドラインの推奨を満たしていた人では、高血圧や心疾患、糖尿病など19種類の慢性疾患の発症リスクが有意に低いことが示された。論文の上席著者である、アイオワ大学健康・人間生理学分野のLucas Carr氏らによるこの研究結果は、「Preventing Chronic Disease」1月号に掲載された。
この研究でCarr氏らは、2017年11月1日から2022年12月1日の間にアイオワ大学ヘルスケア医療センターで健康診断を受けた患者を対象に、Exercise Vital Sign(EVS)質問票を用いた身体活動量のスクリーニングを受けた患者と受けていない患者の健康状態を比較した。また、スクリーニングで測定された身体活動量の違いに基づく健康状態の比較も行った。
EVS質問票は、「中強度から高強度の身体活動(早歩きなど)を週に平均何日程度行っていますか」と「中強度から高強度の身体活動を平均何分間行っていますか」の2つの質問で構成されている。Carr氏は、「この2つの質問には、通常は30秒もあれば回答できるので、患者の診察の妨げになることはない。それにもかかわらず、患者の全体的な健康状態について多くの情報を得ることができる」と述べている。
Carr氏らはまず、EVSの有効なデータがそろった患者7,261人と、スクリーニングを受けていない患者3万3,445人の比較を行った。その結果、身体活動量のスクリーニングを受けた患者は、受けていない患者に比べて、肥満(15%対18%)、うつ病(17%対19%)、高血圧(22%対28%)、合併症のない糖尿病(5.9%対8.5%)、合併症を伴う糖尿病(4.4%対7.3%)、貧血(4.6%対6.1%)、甲状腺機能低下症(9.3%対10.0%)、うっ血性心不全(1.1%対1.9%)、および中等度の腎不全(1.8%対2.5%)の発症率が有意に低いことが明らかになった。
次に、身体活動量のスクリーニングを受けた7,261人の患者を身体活動量に基づき、十分な身体活動量(4,382人、60%)、不十分な身体活動量(2,607人、36%)、身体活動を全く行わない(272人、4%)の3群に分けて健康状態を比較した。その結果、十分な身体活動量の群は、不十分な身体活動量の群や身体活動を全く行わない群に比べて、肥満、うつ病、合併症のない/合併症を伴う高血圧・糖尿病、弁膜症、うっ血性心不全など、身体活動不足に関連する19種類の併存疾患のリスクが低いことが示された。
こうした結果に基づき研究グループは、医師に対し、患者に身体活動量について質問し、活動量を増やす必要がある患者には活動量を増やすように促すことを推奨している。Carr氏は、「現在の医療環境では、患者の身体活動量を増やすために医師が支援を行っても、それに対する報酬を得ることは難しい。身体活動量の不足を報告している患者に対しては、身体活動の処方や地域の健康専門家などの支援サービスと簡単につながるための選択肢が必要だ」と述べている。
Carr氏は、「この研究は、たとえ短時間であっても、患者と身体活動習慣について話すことの大切さを強調している」との見方を示す。なお、2024年12月に「Journal of Physical Activity and Health」に発表した関連研究でCarr氏らは、医師が患者への身体活動のカウンセリングを行った場合、保険会社が医師に95%近くの確率で払い戻しを行っていることを明らかにしている。同氏は、「われわれの研究結果は、推奨されている身体活動に関する請求コードを医療従事者が申請すると、高確率で払い戻しが行われていることを示唆している。この結果は、身体活動量の評価とカウンセリングサービスを提供する取り組みの推進を支持するものだ」と結論付けている。
[2025年1月3日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら