血中セロトニン低下は認知症や神経精神症状にどう影響しているか

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2025/02/05

 

 脳内のセロトニン調節不全は、認知症や神経精神症状と関連しているといわれている。しかし、機能低下、認知機能障害、軽度の行動障害、脳萎縮などの認知症前駆症状を検出するうえで、血中セロトニン濃度の有用性は、依然としてよくわかっていない。シンガポール国立大学のMing Ann Sim氏らは、高齢者における血中セロトニン濃度と認知症や神経精神症状との関連を評価するため、5年間のプロスペクティブ研究を実施した。Brain Communications誌2025年1月9日号の報告。

 対象は、ベースライン時に認知機能障害のないまたは認知機能障害はあるものの認知症でない高齢者。対象患者の神経心理学的評価を毎年行った。認知機能の評価には、モントリオール認知評価、Global Cognition Z-scores、臨床的認知症尺度(CDR)を用いた(機能低下:ベースラインから0.5以上の増加)。軽度の行動障害は、ベースラインおよび毎年のNeuropsychiatric Inventory assessment(NPI)、脳萎縮はベースラインMRIから皮質および内側側頭葉の萎縮スコアを用いて評価した。その後、ベースライン時の血中セロトニン濃度と神経心理学的および神経画像的測定とを関連付け、横断的および縦断的に評価した。さらに、血中セロトニン濃度と横断的脳萎縮スコアとの関連性も評価した。

 主な内容は以下のとおり。

・対象は191人の高齢者(認知機能障害なし:63人[33.0%]、認知機能障害はあるが認知症でない:128人[67.0%])。
・ベースライン時に軽度の行動障害が認められた高齢者は14人(9.0%)。
・セロトニンレベルの最低三分位の高齢者は、最高三分位と比較し、皮質萎縮スコアが高かった(調整オッズ比[aOR]:2.54、95%信頼区間[CI]:1.22〜5.30、p=0.013)。
・セロトニンレベルは、横断的神経心理学的スコアまたは軽度行動障害スコアとの有意な関連が認められなかった(各々、p>0.05)。
・フォローアップ期間中央値60.0ヵ月にわたる長期調査を完了した181人のうち、56人(30.9%)で機能低下が認められた。軽度の行動障害は、119人中26人(21.8%)でみられた。
・最高三分位と比較し、セロトニンレベルの低さは機能低下リスクが高く(最低三分位の調整ハザード比[aHR]:2.15、95%CI:1.04〜4.44、p=0.039)、軽度の行動障害の発生リスクが高かった(最低三分位のaHR:3.82、95%CI:1.13〜12.87、p=0.031、中間三分位のaHR:3.56、95%CI:1.05〜12.15、p=0.042)。
・セロトニンレベルの最低三分位と機能低下との関連は、軽度の行動障害の発生を媒介していた(aOR:3.96、95%CI:1.15〜13.61、p=0.029)。

 著者らは「血中セロトニンレベルの低下は、ベースラインでの皮質萎縮と関連している可能性があり、認知症でない高齢者における機能低下や軽度の行動障害の早期マーカーである可能性が示唆された」と結論付けている。

(鷹野 敦夫)