脊髄の硬膜外腔に挿入した電極を通して電気刺激を与える脊髄刺激療法が、脊髄性筋萎縮症(SMA)患者の筋肉の機能回復を促し、運動機能の強化や歩行機能の改善につながる可能性のあることが、新たな研究で示された。SMAは徐々に筋力が低下する遺伝性疾患の一つだが、1カ月間の小規模な予備的研究で、3人のSMAの成人にデバイスを植え込んで微弱電流で脊髄を刺激したところ、予想外の改善が認められたという。米ピッツバーグ大学のMarco Capogrosso氏らによるこの研究は、「Nature Medicine」に2月5日掲載された。
SMAは、脊髄から筋肉に信号を送る神経細胞である運動ニューロンに影響を及ぼす。これらのニューロンが衰えると筋肉が弱まり、歩く、立ち上がる、さらには呼吸することさえ困難になる。
脊髄刺激療法で植え込むデバイスは、下部脊髄に電気パルスを送り、時間の経過とともに弱くなった筋肉の活性化を促す。Capogrosso氏らは、3人のSMAの成人を対象に、1日に2時間、4週間にわたって、運動タスクを行っている間に脊髄刺激療法を行い、デバイスの電源がオンのときとオフのときの筋力や疲労度、可動域、歩行能力の変化を測定した。
その結果、この治療は正常な動きを完全に回復させるものではなかったが、顕著な改善が見られた。具体的には、参加者全員が、6分間歩行試験でより遠くまで歩けるようになり、この試験の評価尺度であるストライド速度が13〜114%改善した。また、研究開始時には膝をついた姿勢から立ち上がることができなかったある参加者は、研究終了時には立ち上がれるようになった。別の参加者では歩幅が3倍になった。
参加者の1人である米ニュージャージー州フランクリンパーク在住のDoug McCulloughさん(57歳)は、AP通信の取材に対して、「進行性の疾患というのは、安定しているか悪化しているかのどちらかであり、良くなるということは決してない。それゆえ、何であれ改善するのであれば、それは、これまででは考えられない極めて素晴らしい効果だと言える」と話している。
しかも、このような効果は、デバイスの電源を切った後もすぐには消失しなかった。時間の経過とともに効果は薄れていったが、治療後もしばらくの間、筋力の強化を感じた参加者もいた。AP通信によると、McCulloughさんは、デバイスの電源が入っていないときも自分の足が「まるでエネルギーに満ちあふれている感じがした」と表現したという。
この結果から、脊髄刺激療法がSMAや他の筋消耗性疾患の治療における新たなツールになり得ることが示唆された。ただし、今回の研究は短期研究であったため、対象者からデバイスを摘出しなくてはならなかった。McCulloughさんがこの治療を通して得た効果は、6週間後の検査の時点では残っていたが、6カ月後には消失していたという。
米ルイビル大学で脊髄損傷に対する刺激療法の先駆的研究を主導し、現在は非営利団体のケスラー財団に所属している神経科学者のSusan Harkema氏は、「今回の研究結果は重要なものだ」との見解を示している。同氏は、「人間の脊髄回路は極めて精巧にできており、脳により制御される反射神経の単なる集まりではない。本研究は極めて信頼性が高く、今後の進歩に寄与する重要なものだ」とAP通信に語っている。
[2025年2月5日/HealthDayNews]Copyright (c) 2025 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら