メタボリックシンドローム(MetS)に該当する人は、うつ病のリスクが高い可能性のあることが報告された。名古屋大学医学部附属病院先端医療開発部の今泉貴広氏、同大学大学院医学系研究科病態内科学腎臓内科の丸山彰一氏らによる研究の結果であり、詳細は「Scientific Reports」に11月3日掲載された。
うつ病は労働者の精神疾患として最も一般的に見られる疾患であり、公衆衛生上の大きな問題となっている。うつ病が糖尿病や心血管疾患のリスクと関連のあることは既に知られており、さらにそれらの発症前段階に当たるMetSも、うつ病と関連のあることが報告されている。ただし、MetSとうつ病との関連を縦断的に示した研究はなく、MetS該当者が将来的にうつ病を発症しやすいのかどうかは明らかになっていない。仮にそのような関連があるとすれば、MetSによる心血管疾患の発症抑止という目的で行われている特定健診・保健指導を、うつ病予防の介入の機会とするという公衆衛生対策も可能と考えられる。このような背景のもと今泉氏らは、健診データと医療費請求データを用いて、MetS該当者がうつ病を発症しやすいのかを検討した。
2014~2018年度に健診を受診した18~75歳の成人13万4,677人から、腎不全患者や既に抗精神病薬が処方されている人、解析に必要なデータが欠落している人などを除外し、7万6,277人を抽出。2019年3月末まで観察し、抗うつ薬(SSRI、SNRI、NaSSAという3種類の薬)の処方状況を調査した。
7万6,277人のうち、2,051人には観察開始時点で抗うつ薬が処方されており(既処方群)、残りの7万4,226人のうち941人は、観察期間中に抗うつ薬の処方が行われていた(新規処方群)。抗うつ薬が一度も処方されていない群(非処方群)を加えて3群を比較すると、年齢や性別(男性の割合)には有意差がないものの、MetS該当者率は既処方群が16.1%、新規処方群は16.0%であり、非処方群の11.7%より高かった。また、既処方群は他の2群に比べて糖尿病や脂質異常症の割合が高かった。
次に、抗うつ薬の新規処方に関連する因子を検討するため、既処方群を除外した上で、性別と年齢(±3歳以内)が一致する新規処方群と非処方群を1対10の割合で割り当て、計1万915人から成るデータセットを作成し、コホート内症例対照研究を実施した。年齢、性別、喫煙・飲酒・運動・睡眠習慣、睡眠薬・抗不安薬・鎮痛薬(NSAID)の処方、心血管疾患やがんによる入院を調整した多変量解析の結果、以下に記すように、MetSであることやMetSの構成因子などの多くが、抗うつ薬の新規処方と有意に関連していることが明らかになった。
MetS該当者に対する抗うつ薬新規処方のオッズ比(OR)は1.53(95%信頼区間1.24~1.88)、BMIは1高いごとにOR1.04(同1.02~1.06)、腹囲長は10cmごとにOR1.17(1.08~1.27)、20歳からの体重増加が10kg以上でOR1.46(1.25~1.70)、高血圧OR1.17(1.00~1.37)、耐糖能障害OR1.29(1.05~1.58)、脂質異常症OR1.27(1.08~1.51)。なお、このほかに生活習慣関連で、摂食速度が遅いこと(普通に比べてOR1.45)や睡眠不足(OR1.42)が抗うつ薬の新規処方と正の関連があり、摂食速度が速いこと(OR0.64)や飲酒習慣(めったに飲まないに比べて時々はOR0.79、毎日はOR0.65)は負の関連が認められた。
著者らは本研究には、観察研究であり因果関係は不明なこと、SSRIなど3タイプ以外の抗うつ薬による治療を受けている人をうつ病に含めていないこと(その他の抗うつ薬はうつ病治療以外にも使われることが多いため)、非薬物治療を受けている患者やうつ病による休職中で健診を受けていない人を把握できていないことなどの限界点があるとしている。その上で、「MetSやMetS関連の代謝性疾患は労働者における抗うつ薬の新規処方と関連している。MetS該当者を特定する目的で行われている健診に、うつ病のスクリーニングという要素も追加できるのではないか」と結論付けている。
[2023年2月13日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら