新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下で、感染防止対策をより厳格に行っていた職場ほど、独身の人の恋愛活動が活発に行われていたことが明らかになった。産業医科大学環境疫学研究室の藤野善久氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Public Health」に2月16日掲載された。
COVID-19パンデミック発生後、外出自粛などのために社会的交流が少なくなり、「孤独」が公衆衛生上の問題としてクローズアップされてきた。若年者や独身者において、より孤独感が強まったとする研究報告も見られる。独身者では、新たな恋愛関係を構築することで孤独感が抑制されると考えられるが、パンデミックによりそのハードルがより高くなったとも言える。例えば、労働者の場合は職場がパートナーとの出会いの場となることが少なくないが、在宅勤務の奨励をはじめとするさまざまな対策によって、出会いの機会が減った。
一方で、孤独感が募りがちな状況下では、その孤独感を解消しようとする目的のために、独身者の恋愛活動が活発になった可能性も考えられる。藤野氏らはその可能性を、産業医科大学が行っている「COVID-19流行下における労働者の生活、労働、健康に関する調査(CORoNaWork研究)」のデータを用いた縦断的研究により検証した。
2020年12月に、インターネット調査パネル登録者を対象にアンケート調査を行い、20~65歳で独身の労働者2万7,036人から有効回答を得た。これをベースライン調査として、その1年後の2021年12月に追跡調査を実施。1万8,560人(68.7%)が回答した。
追跡調査では、この1年間で「恋愛パートナーを探す活動を行ったか?」、「新しい恋愛パートナーができたか?」という二つの質問を行い、その回答内容と、職場での感染防御対策の厳格さとの関連を検討した。感染防御対策の厳格さは、職場で取られている対策(在宅勤務の奨励、出勤前の体温測定の推奨、マスク常時着用、パーテーション設置、屋内での飲食禁止など7種類)の実施状況、および、「勤務先の感染防御対策は十分だと思うか?」との質問(強い否定~強い同意の四者択一で回答)により評価した。
追跡調査回答者の約6割が男性だった。恋愛活動と感染防御対策との関連の解析に際しては、年齢、性別、婚姻状況(未婚、離婚、死別)、職種、収入、教育歴、飲酒・喫煙習慣、主観的健康観、勤務先の従業員数などの影響を統計学的に調整。解析の結果、職場で実施された感染防御対策の種類が多いほど(傾向性P<0.001)、および、勤務先の感染防御対策が十分だと感じているほど(傾向性P=0.003)、「恋愛パートナーを探す活動を行った」割合が高いという有意な関連が認められた。さらに、実際に「新しい恋愛パートナーができた」割合についても、感染防御対策の種類が多いほどその割合が高いという有意な関連が認められた(傾向性P<0.001)。
このような関連が生じた背景について著者らは、以下のように三つの可能性を考察として述べている。第一に、感染防御対策が厳格に行われている職場で働く人では、感染リスクをコントロールできるという自己効力感が高まり、恋愛行動に積極的になること。第二に、感染防御対策が厳格であることで職場での接触の機会が減り、それを補うために恋愛活動への意欲が高まること。第三に、感染防御対策を徹底した会社は、社員同士の交流を推進する活動も推進していた可能性が高いこと。
以上を基に論文の結論は、「COVID-19パンデミック下で、職場の厳格な感染防御対策の実施とそれに対する満足感が、恋人のいない独身者の恋愛を後押ししたと考えられる。独身者は孤独のリスクが高いが、しっかりとした感染防御対策を取った上で恋愛パートナーとの関係を築くことが、精神的な健康の維持に重要な要素となるのではないか」と記されている。
[2023年6月19日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら