自宅周辺の社会経済環境と、小学生の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染リスクとの関連が報告された。高学歴者の多い環境で暮らす小学生は感染リスクが低く、卸売・小売業の従事者が多い環境の小学生は感染リスクが高いという。同志社大学大学院スポーツ健康科学研究科の大石寛氏(大学院生)、同大学スポーツ健康科学部の石井好二郎氏らの研究の結果であり、詳細は「Children」に4月30日掲載された。
居住地域の社会経済環境とCOVID-19感染リスクとの間に有意な関連があることは、既に複数の研究から明らかになっている。ただしそれらの研究の多くは海外で行われたものであり、またCOVID-19重症化リスクの低い小児を対象とした研究は少ない。日本は子どもの相対的貧困率が高いこと、および、当初は低いとされていた子どものCOVID-19感染リスクもウイルスの変異とともにそうでなくなってきたことから、国内の子どもたちを対象とした知見が必要とされる。これを背景として石井氏らは、大阪市内の公立小学校の282校の「学区」を比較の単位とする研究を行った。なお、大阪市内には生活保護受給率が全国平均の3倍を上回る地区が複数存在している。
解析には、大阪市内公立小学校のCOVID-19感染患児数、行政機関や民間企業が公表・提供している社会経済環境関連データ、住民の大学卒業者の割合、他者との対面の必要性の高い職業(卸売・小売業、郵便・運輸業、宿泊・飲食業、医療・社会福祉関連業)従事者の割合、地理的剥奪指標(ADI)などのデータを用いた。これら以外に、結果に影響を及ぼす可能性のある共変量として、人口密度、世帯人員、医療機関・高齢者施設の件数、公共交通機関の施設(駅やバス停)の数などを把握した。対象期間は、パンデミック第2~5波に当たる2020年6月~2021年11月。
COVID-19に感染した小学生の数を目的変数、社会経済環境関連の指標を説明変数とし、共変量で調整後の解析で、大学卒業者が多く住んでいる学区では小学生のCOVID-19罹患率が有意に低いという負の相関が認められた〔罹患率比(IRR)0.95(95%信頼区間0.91~0.99)〕。一方、卸売・小売業従事者が多い学区では小学生のCOVID-19罹患率が有意に高いという正の相関が確認された〔IRR1.17(同1.06~1.29)〕。他者との対面の必要性の高いそのほかの職業従事者の割合やADIは、小学生のCOVID-19罹患率との有意な関連がなかった。
パンデミックの波ごとに解析した場合も、自宅近隣に卸売・小売業従事者が多いことは第4・5波で、小学生のCOVID-19罹患率と正の相関が認められた。また、解析対象とした第2~5波の中で最も罹患率の高かった第5波では、医療・社会福祉関連業の従事者が多い学区でも正の相関が見られ〔IRR1.16(1.05~1.28)〕、反対に大学卒業者が多い学区では負の相関が見られた〔IRR0.94(0.90~0.99)〕。このほかに第2波では、宿泊・飲食業の従事者が多い学区で小学生の感染リスクが3倍近く高かったことが分かった〔IRR2.85(1.33~6.43)〕。
以上より著者らは、「自宅近隣の社会経済環境が小学生のCOVID-19感染リスクと関連していることが明らかになった。特に、卸売・小売業従事者が多い地区で罹患率が高く、高学歴者が多い地区は罹患率が低い」とまとめている。また、ADIが有意な関連因子として抽出されなかったことから、「感染防止行動に必要な情報の収集、理解、評価とその実践につながる地域住民の実行力が、社会経済的な格差の有無にかかわらず、その地区の子どもたちのCOVID-19感染リスクを押し下げる可能性がある」と考察。「われわれの研究結果は、COVID-19感染リスクの地域格差を是正するための公衆衛生政策に有用な情報となり得る」と付け加えている。
[2023年7月10日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら