糖尿病腎症の病期が、糖尿病網膜症・黄斑浮腫の発症リスクおよび重症度と、独立した関連のある可能性を示すデータが報告された。JCHO三島総合病院の鈴木幸久氏、自由が丘清澤眼科(東京)の清澤源弘氏の研究によるもので、詳細は「Biomedicines」に5月22日掲載された。
かつて長年にわたって成人の失明原因のトップであった糖尿病網膜症(DR)は、近年の治療の進歩により失明を回避できることが多くなった。とはいえ、緑内障や加齢黄斑変性と並び、いまだ失明の主要原因の一角を占めている。また糖尿病ではDRが軽症であっても黄斑浮腫(DME)を生じることがある。黄斑は眼底の中央に位置し視力にとって重要な網膜であるため、ここに浮腫(むくみ)が生じるDMEでは視力が大きく低下する。DMEの治療も進歩しているが、効果が不十分な症例が存在すること、高額な薬剤の継続使用が必要なケースのあることなどが臨床上の問題になっている。
一方、DRと同じく糖尿病による細小血管合併症に位置付けられている糖尿病腎症(DN)では、血圧上昇や浮腫が生じやすい。DRやDNはいずれも高血糖が主要なリスク因子だが、DNはそれに伴う高血圧や浮腫という高血糖とは異なる機序によっても、DRやDMEのリスクを押し上げている可能性がある。清澤氏らはこれらの点を、以下のケースシリーズ研究によって検討した。
研究対象は、三島総合病院の眼科を受診した2型糖尿病患者261人(平均年齢70.1±10.1歳、男性54.8%)。このうち127人(48.7%)にDR、64人(24.5%)にDMEが認められた。DMEが認められた患者は全てDRを有していた。
DR群と非DR群を比較すると、年齢、性別、BMI、血清脂質値、および高血圧や虚血性心疾患の有病率には有意差がなかった。一方、DR群の方が糖尿病罹病期間が長く、過去のHbA1cの平均値および最高値が高いという有意差があった。また、推算糸球体濾過量(eGFR)が低く(56.2±26.4対67.1±17.0mL/分/1.73m2)、DNの病期が進行していた(1~5期の病期分類で2.4±1.2対1.4±0.6)。
次に、DRの発症・重症度、およびDMEの発症・重症度という4項目それぞれを目的変数とし、性別、糖尿病罹病期間、BMI、過去のHbA1cの平均値・最高値、血清脂質値、高血圧や虚血性心疾患の既往、およびRAS阻害薬やSGLT2阻害薬の処方を説明変数とする多重回帰分析を施行。その結果、糖尿病の罹病期間が長いことや平均HbA1cとともに、DNの病期がDRおよびDMEの発症と重症度の全てに、それぞれ独立して関連していることが明らかになった。
例えば、DME発症に対して、糖尿病罹病期間はオッズ比(OR)1.33(95%信頼区間1.01~1.75)、平均HbA1cはOR5.52(同1.27~24.1)、DNの病期はOR2.80(同1.37~5.72)だった。性別やBMI、血清脂質値、高血圧や虚血性心疾患の既往、RAS阻害薬やSGLT2阻害薬の処方は、DRおよびDMEの発症や重症度と独立した関連が示されなかった。HbA1c最高値はDRの発症についてのみ、有意な説明因子として抽出された。
このほか、単変量解析からは、eGFRはDRおよびDMEの発症や重症度と有意な負の相関があり、アルブミン尿は有意な正の相関があることが示された。RAS阻害薬やSGLT2阻害薬の処方は、いずれに対しても有意な関連が見られなかった。
以上を基に著者らは、「糖尿病腎症が糖尿病による網膜疾患の発症と進展に関与している可能性が考えられ、腎症の病期は糖尿病網膜疾患の予測因子となり得る」と結論付けている。
[2023年7月10日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら