タバコを吸うことで身体的フレイルのリスクが有意に上昇し、受動喫煙が加わるとさらにリスクが高くなることを示すデータが、国内の地域在住高齢者を対象とする縦断研究から示された。国立長寿医療研究センター研究所老年学・社会科学研究センター老化疫学研究部の西田裕紀子氏、台中栄民総医院(台湾)の朱為民氏らの共同研究によるもので、詳細は「Geriatrics & Gerontology International」に10月26日掲載された。
喫煙や受動喫煙が有害であることについては、膨大な研究によって強固なエビデンスが確立されており、近年ではフレイル(要介護予備群)との関連も報告されている。ただし受動喫煙とフレイルとの関連を示した研究の大半は横断研究であり因果関係は確認されておらず、また喫煙と受動喫煙が重なった場合にフレイルリスクがどのように変化するのかは明らかにされていない。西田氏らは、同研究所による「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」のデータを用いてこれらの点を検討した。
NILS-LSAは、愛知県大府市などの40~79歳の日本人一般住民2,267人を対象とする前向きコホート研究で、1997~2022年に全9回の調査が実施されている。本研究では、喫煙状況とフレイルの関連の解析に必要な情報が収集されていた第3次調査(2002~2004年)から第7次調査(2010~2012年)のデータを利用した。フレイルという高齢者に多い状態のリスクを評価するという目的から、65歳未満は解析対象から除外。そのほかに、研究参加登録時点でフレイルと判定されていた人、追跡調査に参加していなかった人などを除外し、最終的に540人(平均年齢71.4±4.6歳、男性52.4%)を解析対象とした。
喫煙状況はアンケートの回答に基づき判定。喫煙歴がない人と禁煙後の人を「非喫煙者」、現在も吸っている人を「喫煙者」として全体を二分すると、後者が13.2%だった。また受動喫煙については、家庭内や職場環境などでの自分以外の喫煙者の有無と、その人に接する頻度を問い、それらの喫煙者との接触頻度が「なし」以外(毎日または時々のいずれか)の場合を「受動喫煙曝露者」と定義した。
フレイルについては、CHS基準という基準を用いて、身体的フレイルに該当するか否かを判定。平均6.6年間の追跡で、139人が新たに身体的フレイルと判定された。
解析ではまず、全体を非喫煙者と喫煙者に二分して、交絡因子(年齢、性別、教育歴、婚姻状況、雇用状況、余暇身体活動、うつ症状、慢性疾患、残存歯数など)の影響を調整後に比較すると、喫煙者は身体的フレイルのオッズ比が2.4倍高い可能性が示された〔オッズ比(OR)2.39(95%信頼区間1.21~4.74)〕。
次に、非喫煙/喫煙および受動喫煙の曝露なし/ありにより全体を4群に分け、非喫煙かつ受動喫煙曝露のない群を基準として比較。すると、喫煙者で受動喫煙曝露のある群は、身体的フレイル発症のオッズ比が3.5倍高かった〔OR3.47(同1.56~7.73)〕。自分の喫煙のみや受動喫煙のみの群は、有意なオッズ比上昇が観察されなかった。
続いて性別や年齢で層別化したサブグループ解析を施行。性別の解析からは、男性では全体解析と同様に、非喫煙者に比較して喫煙者は有意なオッズ比上昇が認められたが〔OR3.75(1.76~8.00)〕、女性は非有意だった。年齢層別の解析からは、75歳以上では全体解析と同様に、非喫煙者に比較して喫煙者は有意なオッズ比上昇が認められたが〔OR4.12(1.43~11.87)〕、75歳未満は非有意だった。
最後に、解析対象を喫煙者のみとし、喫煙者の受動喫煙曝露の有無でオッズ比を算出。すると、喫煙者ながらも受動喫煙曝露のない群に比べて、喫煙かつ受動喫煙曝露のある群でのフレイル発症オッズ比は9倍を上回ることが明らかになった〔OR9.03(2.42~33.77)〕。
著者らによると、本研究は日本人高齢者の喫煙および受動喫煙の状況と身体的フレイルのリスクとの関連を縦断的に検討した初の研究だという。結果の総括として、「累積喫煙量を評価していないことなどが限界点として挙げられるが、喫煙と受動喫煙はフレイルリスクを相加的に高めることが示唆された。それら両者に対する公衆衛生対策の強化が必要と考えられる」と述べられている。
[2023年12月11日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら