認知症は、低~中所得国の高齢者の身体障害に寄与する最大の要因であることが、イギリスKing’s College London精神研究所精神保健センターのRenata M Sousa氏らによる地域住民ベースの調査で明らかとなった。2004年の世界疾病負担(Global Burden of Disease)の推計では、身体障害を伴う生存年(YLD)は全世界で7億5,100万年であり、その68%は非伝染性の慢性疾患によるものだが、この慢性疾患に起因する身体障害の負担の84%は低~中所得国で発生している。しかし、特に低~中所得国の高齢者の身体障害について検討した調査はほとんどないという。Lancet誌2009年11月28日号掲載の報告。
7ヵ国11地域に居住する高齢者1万5,000人を対象とした横断的調査
研究グループは、身体的、精神的、認知的な疾患が身体障害に及ぼす影響を評価し、健康に関する社会人口学的な特性によって身体障害の地理的分布の差をどの程度説明できるかについて検討するために横断的な調査を実施した。
低~中所得の7ヵ国(中国、インド、キューバ、ドミニカ、ベネズエラ、メキシコ、ペルー)の11地域に居住する65歳以上の高齢者1万5,022人が対象となった。身体障害の評価には、12項目からなるWHOの身体障害評価スケジュール2.0を使用した。認知症、うつ、高血圧、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を確認するための臨床評価として、種々の疾患について自己申告に基づく診断を行った。
人口寄与有病率分画(population-attributable prevalence fraction; PAPF)を算出するために、負の2項分布回帰およびPoisson回帰分析によって、身体障害スコアに対する独立の要因の評価を行った。
認知症のPAPFが最も高い、慢性的な脳や心の疾患は優先順位を高くすべき
インドとベネズエラの農村部を除き、身体障害に寄与する最大の要因は認知症であった(PAPF中央値:25.1%)。それ以外の実質的な要因としては、脳卒中(同:11.4%)、四肢障害(同:10.5%)、関節炎(同:9.9%)、うつ(同:8.3%)、視力障害(同:6.8%)、消化器障害(同:6.5%)が確認された。
身体障害の地域間差は、健康に関する社会人口学的な特性の構造的な差によるところが大きかった。
著者は、「世界疾病負担の解析では、低~中所得国の高齢者における身体障害の最大の要因は失明とされていたが、今回の実証的な調査では認知症の寄与が最も大きかった」と結論し、「慢性的な脳や心の疾患は優先順位を高くすべきである。身体障害に加え、介護者への依存にともない、ストレスの多い複雑で長期的な課題を介護者にもたらすことから、社会的なコストが膨大なものになる」と指摘する。
(医学ライター 菅野 守)