2009年11月までにイングランドでは138人が新型インフルエンザウイルス(2009年汎発性インフルエンザA/H1N1)感染が原因で死亡し、推定死亡率(10万人当たり26人)は予想よりも低かったことが、イギリス保健省Richmond HouseのLiam J Donaldson氏らの調査で明らかとなった。イギリスでは、インフルエンザによる死亡率は伝統的に超過死亡(excess death)に基づいて算出されているが、死亡証明による予測であるため母集団が少ない場合は信頼性が低いとされる。この調査の初期報告は、検査で感染が確定された例を母集団としたため過小評価となった可能性があるが、今回は症状の見られる症例を母集団として推計したという。BMJ誌2010年1月9日号(オンライン版2009年12月10日号)掲載の報告。
2009年11月8日までに報告されたデータを解析
研究グループは、イングランドにおける新型インフルエンザによる死亡率の調査を行った。
2009年11月8日までに、救急病院およびプライマリ・ケア施設の医師によって報告された新型インフルエンザに関するデータを解析した。推定感染者数や死亡数とともに年齢別の死亡率を算出し、基礎疾患、病態の経時的変化、抗ウイルス薬による治療状況を調べた。
推定死亡率は、全体で0.026%、子どもが0.011%、高齢者は0.98%
全体の推定死亡率は10万人当たり26(11~66)人であり、当初の予想よりも低かった。年齢別の解析では、5~14歳の子どもが最も低く[11(3~36)/10万人]、65歳以上の高齢者が最も高かった[980(300~3,200)/10万人]。子どもは高感染/低死亡率で、高齢者は低感染/高死亡率という傾向が見られた。
死亡原因が新型インフルエンザ感染と確定されたのは138人で、年齢中央値は39歳であった。その2/3(92人、67%)が、現在であればイギリスのワクチン接種基準を満たしていた。50人(36%)は既存疾患がないか、あってもごく軽度であった。多くの患者(108人、78%)が抗ウイルス薬を処方されていたが、そのうち82例(76%)は発症後48時間以内の投与を受けていなかった。
これらの知見を踏まえ、著者は「統計学的には、今回の新型インフルエンザのパンデミックは20世紀に起きた爆発的感染拡大に匹敵するものである。今回の方が感染者数は少ないが、これは対策を講じないことを正当化するものではない」としている。
また、「高リスク例には優先的にワクチン接種を行うべきである。本研究には対照群がないため外挿するには限界があるが、死亡例の多くは抗ウイルス薬の投与が遅れていることから、適切な時期に投与すれば死亡率は低減できることが示唆される」「既存疾患のない健常者が感染した場合は実質的に死亡数が少なかったことから、ワクチン接種プログラムを拡大し、早期の抗ウイルス薬治療を広範に実施すべきと考えられる」と考察している。
(医学ライター:菅野守)