医師の専門性を患者や同僚医師の評価に基づいて判定する場合、当該医師や評価者の背景因子に起因する組織的バイアスが生じる可能性があるため注意を要することが、英国・ペニンシュラ医科歯科大学のJohn L Campbell氏らの調査で示された。王立医師協会(GMC)は、イギリスの医師が医師免許を継続して保持するには妥当性を再確認する必要があり、そのためには最新かつ実臨床に即した医療を提供可能なことを示すよう提言している。医師による認定の申請を判定するには、患者や他の同僚医師からの多岐にわたる評価がエビデンスの重要な情報源になるという。BMJ誌2011年11月5日号(オンライン版2011年10月27日号)掲載の報告。
医師の専門能力評価に影響する予測因子を調査
研究グループは、医師の専門性を評価する際にみられる組織的バイアス(多くの個別の条件下で評価が行われるため、実際の価値とはずれが生じること)の原因に関して質問票を用いて横断的に調査し、得られたデータについて解析を行った。
調査対象は、イングランドとウェールズのさまざまな専門領域の非研修段階にある医師1,065人と、その同僚医師1万7,031人および患者3万333人であった。GMCによる患者および同僚医師への質問票を用いて当該医師の専門能力を評価し、医師自身と患者、同僚の背景因子に起因する可能性のある予測因子について検討した。
多くの情報源からの医師の評価は慎重に解釈すべき
医師および患者の背景因子で調整したところ、ヨーロッパ以外の国で学位を取得した医師に対する患者の評価が低いことが示された。すなわち、これらの医師では、1)特に精神科医として診療業務を行っている医師の評価が低い、2)質問票を提出した白人患者が少ない、3)当該医師の診察を「たいへん重要(very important)」とした患者が少ない、4)「かかりつけ医に診てもらう」と回答した患者が少ない、などの傾向が認められた。
同僚医師の評価は、イギリスおよび南アジア以外の国で学位を取得した医師において低かった。これらの医師では、1)代理医師として雇用、2)GPあるいは精神科医として診療、3)非専門的職員(staff grade)、準専門医(associate specialist)あるいは他の同等職種として雇用、4)医師と毎日あるいは毎週、専門的な交渉を行っていると答えた同僚が少ない、などの事例が確認された。
完全調整後のモデルによる解析では、当該医師の年齢、性別、人種は、患者や同僚医師による評価の独立の予測因子ではなかった。患者や同僚の年齢、性別も、当該医師の評価の予測因子ではなく、同僚の人種も関連はなかった。
これらの結果を踏まえ、著者は「医師の専門性に関する患者や同僚医師の評価を考慮する際は注意が必要である。標準化された専門性の評価法がない場合は、多くの情報源からの意見に基づく医師の評価は慎重に解釈すべき」と警告し、「専門家としての医師の評価には、評価者や評価対象医師の背景因子に起因する組織的バイアスが存在する可能性がある。医師としての妥当性の再確認を目的に、GMCの患者/同僚質問票を用いた調査を行う場合、多くの情報源からの評価は少なくとも初期段階においては「形成的評価」として行われるべき」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)