院内心停止患者では、蘇生処置で蘇生した患者の処置時間は蘇生しなかった患者よりも長く、処置時間が長いほうが生存の可能性は高くなることが、米国・ミシガン大学のZachary D Goldberger氏ら米国心臓協会(AHA)の研究グループの検討で示された。先進国では、入院患者1,000人当たり1~5人が心停止を来し、心停止患者の退院時の生存率は20%に満たない。蘇生処置をいつ止めるかは臨床医が直面する最大の課題の1つだが、心停止患者の予後は全般的に不良なため、臨床医は処置開始後早期に自己心拍が再開しない場合は処置の継続に消極的になりがちだという。Lancet誌2012年10月27日号(オンライン版2012年9月5日号)掲載の報告。
蘇生処置時間と生存の関連を観察試験で評価
研究グループは、施設間の蘇生処置時間の違いを調査し、処置時間が長い施設に入院した患者は短い施設よりも生存率が高いか否かを検討する観察試験を実施した。
2000~2008年までに、米国の435施設が参加する“Get With The Guidelines—Resuscitation”レジストリーに登録された6万4,339人の院内心停止患者を対象とした。各施設の蘇生処置時間の全般的な傾向を知るために処置時間中央値を算出した。マルチレベル回帰モデルを用いて蘇生処置時間とリスク調整生存率の関連を評価した。
主要評価項目は、自己心拍再開(return of spontaneous circulation)による蘇生および退院時の生存とした。
処置時間16分よりも25分で蘇生率が12%上昇
6万4,339人のうち3万1,198人(48.5%)が自己心拍再開を達成し、生存して退院したのは9,912人(15.4%)だった。自己心拍再開達成者の蘇生処置時間中央値が12分[四分位数範囲(IQR):6~21]であったのに対し、非蘇生者は20分(同:14~30)だった。
院内蘇生処置時間が最短の四分位群(1万3,994人)の処置時間中央値は16分(IQR:15~17)で、第2四分位群(1万8,783人)が19分(同:18~20)、第3四分位群(1万9,106人)が22分(同:21~23)、最長四分位群(1万2,456人)は25分(同:25~28)だった。最短四分位群(16分)に対する最長四分位群(25分)の自己心拍再開の未調整リスク比は1.12[95%信頼区間(CI):1.06~1.18、p<0.0001]で、生存退院の未調整リスク比は1.12(95%CI:1.02~1.23、p=0.021)であり、処置時間が長いほうが蘇生の可能性が高くなった。
著者は、「蘇生処置時間は施設間にばらつきがみられた。至適な蘇生処置時間は確定できないが、処置時間の延長に向けた取り組みが高リスク集団の生存率を改善する可能性が示唆された」と結論付け、「処置時間を10~15分延長しても医療資源への影響はわずかと考えられ、アウトカムは改善する可能性がある」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)