デューク大学(米国)ゲノム研究所のChaitanya R. Acharya氏らは、「遺伝子発現プロファイルの活用が乳癌の予後予測と治療戦略に有益をもたらす」として、ゲノム情報と臨床像および病理学的危険因子(米国で「Adjuvant! Online」と呼ばれている乳癌再発リスクのオンラインシミュレーションシステムの集約情報)を統合し、初期乳癌の予後予測の精度アップと治療戦略改善が図れるかどうかを検討した。JAMA誌2008年4月2日号より。
補助化学療法の初期乳癌患者964例対象の後ろ向き研究
本研究は、補助化学療法対象となった初期乳癌患者を対象とした後ろ向き研究。マイクロアレイ・データに対応した964例(最初の解析患者群として573例をセット、検証群として391例をセット)の乳房腫瘍サンプルが用いられた。患者は全員、臨床病理学的所見に基づき再発危険スコアに割り付けられ、再発危険スコアとの一致パターン入手と、臨床病理学的予後モデルでの予後予測の精度を高めるため、発癌経路と腫瘍生物学/微小環境状態を現す署名付け(signature)が行われた。化学療法反応の予測因子も、初期乳癌での臨床特異性との関連を特徴づけるため実施された。
主要評価項目は、無再発生存と薬物療法への感受性予測を洗練する初期乳癌の遺伝子発現シグネチャーと臨床病理学的変数。
再発リスク予測の精度を高める予備的証拠が得られた
573例のデータセットで、発癌経路と腫瘍生物学/微小環境状態のパターンを示す予後に有意なクラスタが同定された。乳癌の下位表現型を示す低リスク(ログランク検定P=0.004)、中リスク(ログランク検定P=0.01)と高リスク(ログランク検定P=0.003)の各クラスタ。
例えば低リスク群(6つの予後的に有意なクラスタのうち)クラスタ4の患者は、クラスタ1(ログランク検定P=0.004)、クラスタ5(ログランク検定P=0.03)の患者に比べて無再発生存が下位だった。クラスタ4の患者の無再発生存の中央値は、クラスタ5の16ヵ月(95%信頼区間:10.5~27.5ヵ月)よりも、クラスタ1の19ヵ月(7.5~24.5ヵ月)よりも少なかった。
多変量解析の結果からは、ゲノムクラスタの独立した予後的価値が確認された[低リスク(P=0.05)、ハイリスク(P=0.02)]。
これら再発リスクパターンの再現性と有効性は検証群でも、クラスタは同一ではなかったが確証された。
また予後臨床ゲノムクラスタは、一般的に用いられる細胞毒性治療にユニークな感受性パターンを持つことも明らかとなった。
Acharya氏らは、「これらの結果は、臨床リスク階層化に遺伝子発現シグネチャーを組み入れることで予後予測の精度を高めることができるという予備的証拠となる。治療戦略の細分化のためこのアプローチの価値を前向き研究で検証する必要がある」と結論づけた。
(朝田哲明:医療ライター)