常用量および頓用量のアセトアミノフェン(オーストラリアでの一般名は「パラセタモール」、日本とは投与量が異なる)は腰痛の回復までの期間の短縮には効果がないことが、オーストラリア・シドニー大学のChristopher M Williams氏らが行ったPACE試験で示された。急性腰痛のガイドラインでは、第一選択の鎮痛薬としてアセトアミノフェンが広く推奨されているが、他の薬剤との比較では効果に差はないとされており、この推奨を直接的に支持する質の高いエビデンスはないという。Lancet誌オンライン版2014年7月24日号掲載の報告。
疼痛改善効果をプラセボ対照無作為化試験で評価
PACE試験は、腰痛患者における常用量および頓用量のアセトアミノフェンの疼痛発現から回復までの期間の改善効果を検討する多施設共同二重盲検ダブルダミー・プラセボ対照無作為化試験。対象は、発症から6週間以内、疼痛が中等度~高度の初発の急性腰痛患者であった。
参加者は、アセトアミノフェン常用量群(3,990mg 分3/日)、頓用量群(疼痛緩和の必要に応じて最大4,000mg/日)またはプラセボ群に無作為に割り付けられ、最長で4週間の治療が行われた。患者は最良のエビデンスに基づく助言を受け、3ヵ月間のフォローアップが実施された。
主要評価項目は、腰痛発症から回復までの期間とした。回復は、疼痛スコア(0~10)が0~1の期間が7日継続した場合と定義した。
回復までの期間は16~17日、適切な助言が重要
2009年11月11日~2013年3月5日までに、シドニー市の235人のプライマリ・ケア医療従事者(医師181人、薬剤師50人、理学療法士4人)から1,652例が登録された。平均年齢は45歳で男性が53%であった。このうち適格基準を満たさなかった9例を除く1,643例(常用量群:550例、頓用量群:546例、プラセボ群:547例)が解析の対象となった。
12週時の持続的な回復の達成率は、常用量群が85%、頓用量群は83%、プラセボ群は84%であり、全体の有意差検定では群間に差を認めなかった(補正後p=0.79)。
回復までの期間中央値は、常用量群が17日、頓用量群も17日、プラセボ群は16日であった。常用量群とプラセボ群間のハザード比(HR)は0.99(95%信頼区間[CI]:0.87~1.14)、頓用量群とプラセボ群間のHRは1.05(同:0.92~1.19)、常用量群と頓用量群間のHRは1.05(同:0.92~1.20)であり、いずれも有意な差を認めなかった。
アドヒアランスに関する質問票で、推奨用量の70%以上を服薬したと答えた患者は、常用量群が51%、頓用量群も51%、プラセボ群は47%であった。治療2週までにレスキュー治療として非ステロイド性抗炎症薬ナプロキセンを服用した患者は、それぞれ<1%、1%、1%で、フォローアップ期間を通じて他の薬剤を使用した患者は20%、23%、23%であった。
有害事象の発現率は常用量群が18.5%、頓服量群は18.7%、プラセボ群は18.5%であった。治療に満足と答えた患者は、それぞれ76%、72%、73%であった。
疼痛の重症度、身体機能障害、全般的な症状、睡眠の質の低下、QOL(SF-12)などの副次評価項目も3群間に大きな差はみられなかった。
著者は、「常用量および頓用量のアセトアミノフェンは腰痛の回復期間を改善しなかった」とまとめ、「ガイドラインの本薬の推奨は再考を要する。他のコホートに比べると、本試験のすべての評価項目が改善していることから、腰痛の急性発作では薬物療法よりも、むしろ患者への適切な助言や不安を取り除いて安心感を与えることが重要と考えられる」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)