PALB2遺伝子の機能喪失型変異は遺伝性乳がんの重要な原因であることが、英国・ケンブリッジ大学のAntonis C Antoniou氏らの検討で示された。生殖細胞系におけるPALB2遺伝子の機能喪失型変異は、乳がん発症の素因となることが知られているが、この変異がもたらす乳がんの生涯リスクは明らかにされていないという。NEJM誌2014年8月7日号掲載の報告。
変異保因女性の乳がんリスクを年齢別に解析
研究グループは、
PALB2遺伝子に有害性の短縮変異やスプライス変異、欠失変異を有する154家族362人の乳がんリスクを分析した。
PALB2遺伝子の遺伝型と家族集積性の影響を考慮した複合分離比分析変法(modified complex-segregation-analysis methods)を用いて、変異保因者の乳がんリスクを年齢層別に推定した。
適格基準を満たした154家族311例のうち229例が乳がんを発症した。年齢層別の乳がん患者数は、20歳台が7例、30歳台が50例、40歳台が84例、50歳台が55例、60歳台が24例、70歳台が7例、80歳以上が2例であった。機能喪失型変異は
PALB2遺伝子の48部位でみつかった。
乳がんリスクは一般集団の5~9倍
PALB2遺伝子変異保因女性の年間乳がん発症率は、20~24歳の0.01%から50~54歳の1.60%まで加齢とともに上昇し、55歳以降は年間約1.4%で横ばいとなった。
変異保因女性の乳がんリスクは一般集団に比べ、40歳未満で8~9倍、40~60歳で6~8倍、60歳以上では約5倍の上昇であった。また、変異保因女性における乳がんの推定累積リスクは、50歳までは14%(95%信頼区間[CI]:9~20%)、70歳までは35%(同:26~46%)と推算された。
変異保因女性の出生年別の乳がんリスクは、1940年以前に出生した女性に比べ、1940~59年に生まれた女性は2.84倍、1960年以降生まれの女性は6.29倍であり、有意な差が認められた(p<0.001)。さらに、遺伝、環境、生活様式などの家族因子も有意な影響を及ぼしていた(p=0.04)。一方、居住国別の乳がんリスクには差はみられなかった(p=0.11)。
変異保因女性が70歳までに乳がんを発症する絶対リスクは、乳がんの家族歴がない場合の33%(95%CI:25~44%)から、50歳の時点で乳がんに罹患していた第一度近親者(母親、姉妹)が2人以上いる場合の58%(95%CI:50~66%)までの幅があった。
著者は、「
PALB2遺伝子の機能喪失型変異は、乳がんの素因となる変異の頻度およびそれらに関連するリスクの双方の点で、遺伝性乳がんの重要な原因である」と結論し、「今回のデータにより、
PALB2遺伝子変異の保因者の乳がんリスクは
BRCA2遺伝子変異の保因者と部分的に重複する可能性が示唆された」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)