降圧薬の投与は治療前の心血管リスクで判断すべきか/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2014/09/03

 

 降圧薬治療による心血管リスクの相対的な抑制効果は、ベースラインの絶対リスクの高低にかかわらずほぼ一定だが、絶対リスクの低下の程度は、ベースラインの絶対リスクが高いほど大きくなることが、スウェーデン・ウプサラ大学のJohan Sundstrom氏らBlood Pressure Lowering Treatment Trialists' Collaboration(BPLTTC)の検討で示された。この知見は、降圧薬治療は血圧の高い集団ではなく心血管リスクの高い集団をターゲットとすべきとの見解を支持するものだという。BPLTTCは本論文を、「リスクに基づくアプローチは、血圧に基づくアプローチよりも費用効果が優れるとともに、治療を要する患者数を減らし、薬剤費を抑制する一方で、脳卒中や心臓発作の回避数を増やす」と締めくくっている。Lancet誌2014年8月16日号掲載の報告。

プラセボ群のデータでリスク予測式を開発
 BPLTTCは、降圧薬治療で達成される相対的な心血管リスクの低下は、ベースラインの心血管リスクの程度が異なる集団間でほぼ同じであり、それゆえ絶対リスクの低下はベースラインの心血管リスクが高いサブグループのほうが大きいとの仮説を立て、これを検証する目的でメタ解析を行った。

 解析には、降圧薬とプラセボ、あるいはより強力な降圧薬療法と弱い降圧薬療法の無作為化比較試験に参加した個々の患者データを用いた。主要評価項目は主要心血管イベント(脳卒中、心臓発作、心不全、心血管死)とした。

 対象となった試験のプラセボ群のデータから開発されたリスク予測式を用いて、ベースラインの5年主要心血管リスクを、その程度によって4つのカテゴリーに分けた(<11%、11~15%、15~21%、>21%)。

 11試験(26の治療群)に登録された6万7,475例が適格基準を満たした。このうち5万1,917例で、リスク予測式を用いてベースラインの心血管リスクの予測を行った。予測リスクが<11%の群が2万5,480例、11~15%の群が1万2,544例、15~21%の群が8,287例、>21%の群は5,606例で、全体の平均年齢は65.1歳、女性が44.5%を占めた。

高リスク群ほど絶対リスク低下度が大きい、予測式は有用
 ベースラインにおける全体の予測5年心血管イベントの絶対リスクの平均値は11.7%であり、各群の平均値は、<11%群が6.0%、11~15%群が12.1%、15~21%群が17.7%、>21%群は26.8%であった。プラセボ群の予測5年心血管リスクは11.5%であった。また、プラセボ群に比べ治療薬群は、平均血圧が5.4/3.1mmHg高かった。

 フォローアップ期間中央値4.0年の時点で、4,167例(8%)が心血管イベントを発症した。5年間の降圧薬治療による心血管リスクの相対的な低下率は、ベースラインのリスクが低い群の順に18%、15%、13%、15%であり、群間に差はみられなかった(傾向性検定:p=0.30)。

 これに対し、5年間の降圧薬治療による1,000例当たりの心血管イベント予防数は、それぞれ14件、20件、24件、38件であり、絶対リスクはベースラインのリスクが高い群ほど大きく低下した(傾向性検定:p=0.04)。

 脳卒中、冠動脈心疾患、心不全、心血管死も、おおよそこれと同様のパターンを示したが、全死因死亡の絶対リスク低下はベースラインの高リスク群で大きいとはいえなかった。

 著者は、「これらの結果は、すでに脂質異常症の治療で推奨されているように、降圧薬治療を決める際の情報として、ベースラインの心血管リスクの使用を支持するものであり、その手段として当リスク予測式は有用と考えられる」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)

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コメンテーター : 桑島 巖( くわじま いわお ) 氏

J-CLEAR理事長

東都クリニック 高血圧専門外来