ヒト胚性幹細胞(hESC、ヒトES細胞)由来の網膜色素上皮細胞で網膜下移植を行った患者について、約2年間追跡した結果が発表された。過剰増殖や拒絶反応などの有害事象は認められず、治療の安全性が確認されたという。米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のSteven D Schwartz氏らが、同移植を行った18例について行った2件の第I・II相前向き臨床試験の結果で、Lancet誌オンライン版2014年10月15日号で発表された。
中央値22ヵ月追跡し、安全性を評価
Schwartz氏らは、スタルガルト病黄斑ジストロフィー(18歳超)と萎縮性加齢黄斑変性症(55歳超)の患者、それぞれ9例に対して、ヒトES細胞由来の網膜色素上皮細胞で網膜下移植を行い追跡、治療の安全性について評価を行った。被験者への移植細胞数は、5万、10万、15万のいずれかだった。
被験者について中央値22ヵ月追跡し、全身・眼科検査、画像検査を行った。
視力関連QOL、術後3~12ヵ月で改善
結果、過剰増殖や拒絶反応、移植細胞に関連する目や全身性の重篤事象は認められなかった。
有害事象については、網膜硝子体手術と免疫抑制に関連するものが認められた。また被験者18例のうち13例(72%)で、網膜色素上皮細胞移植によると考えられる網膜色素の増大が確認された。
最高矯正視力については、10眼で改善、7眼で改善または維持が認められ、10文字超に相当する低下が報告されたのは1眼にとどまった。
視力関連QOLについて調べたところ、視力一般・周辺視覚、近点・遠点活動については、萎縮性加齢黄斑変性症の患者群で、移植後3~12ヵ月時点で16~25ポイント、スタルガルト病黄斑ジストロフィーの患者群では同8~20ポイントの改善が認められた。
研究グループはこれらの結果を受けて、「ヒトES細胞由来細胞を用いた治療が、いまだ細胞修復や交換を要する治療法がない疾患について、新たな安全な治療法となる可能性が示唆された」とまとめている。
(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)