超急性期脳卒中への硫酸Mgの有用性は?/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2015/02/16

 

 脳卒中が疑われる患者に対し、病院到着前に神経保護療法として硫酸マグネシウムの投与を行っても、予後は改善されないことが、米国南カリフォルニア大学のJeffrey L Saver氏らが行ったFAST-MAG試験で示された。脳卒中急性期の再灌流療法の補完的治療戦略として、神経保護薬が有望視されている。硫酸マグネシウムは、脳卒中の前臨床モデルで神経保護作用が示され、ヒトでは発症早期の投与による有効性の徴候および許容可能な安全性プロファイルが確認されている。NEJM誌2015年2月5日号掲載の報告。

病院到着前神経保護薬投与を無作為化試験で評価

 FAST-MAG試験は、脳卒中の症状発現後2時間以内の硫酸マグネシウム投与の有用性を評価する多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験(米国国立神経疾患・脳卒中研究所[NINDS]の助成による)。対象は、年齢40~95歳、修正ロサンゼルス病院前脳卒中スクリーン(modified LAPSS)で脳卒中が疑われ、治療開始時に症状発現から2時間以内の症例であった。

 被験者は、硫酸マグネシウムまたはプラセボを静注する群に無作為に割り付けられた。治療前の脳卒中重症度はロサンゼルス運動スケール(LAMS、0~10点、点が高いほど運動麻痺が重度)で評価した。

 病院到着前に救急隊員が負荷用量(硫酸マグネシウム4gを生理食塩水54mLに溶解し、15分でボーラス投与)の投与を開始し、到着後は救急医療部の看護師が維持療法(同16gを同240mLに溶解し、10mL/時で24時間投与)を行った。

 主要評価項目は、90日時の機能障害の程度とし、修正Rankinスケール(mRSスコア:0~6点、点が高いほど障害が高度)による評価を行った。

 日常生活動作(ADL)はBarthelインデックス(BI:0~100点、点が高いほど自立度が高度)、神経学的障害はNIH脳卒中スケール(NIHSS:0~42点、点が高いほど障害が高度)、全体的な機能評価はグラスゴー・アウトカム・スケール(GOS:1~5点、点が高いほど障害が高度)で行った。総合的回復の評価は、mRSスコア0/1、BI≧95、NIHSS 0/1、GOS 1の場合にexcellent、それぞれ≦2、≧60、≦8、1/2の場合にgoodと定義した。

golden hour内投与は74.3%、システム上の目的は達成

 カリフォルニア州ロサンゼルス市とオレンジ郡の315台の救急車と60の受け入れ施設が参加した。2005年1月~2012年12月までに1,700例が登録され、マグネシウム群に857例、プラセボ群には843例が割り付けられた。

 全体の平均年齢は69(±13)歳、女性が42.6%で、最終診断は虚血性脳卒中が73.3%、出血性脳卒中が22.8%、脳卒中様病態が3.9%であり、治療前の平均LAMSスコアは3.7(±1.3)であった。症状発現から投与開始までの期間中央値は45分(四分位範囲:35~62)であり、74.3%の患者で症状発現後1時間以内に投与が開始された。

 90日時の補正後の各mRSスコアの患者分布は、0がマグネシウム群18.7%、プラセボ群18.4%、1がそれぞれ16.3%、16.2%、2が18.4%、18.3%、3が13.3%、13.3%、4が10.5%、10.6%、5が10.1%、10.2%、6は12.7%、13.0%であり、両群間に障害のアウトカムの差は認めなかった(Cochran-Mantel-Haenszel検定:p=0.28)。同様に、90日時のmRSスコアの平均値は、マグネシウム群、プラセボ群ともに2.7であった(p=1.00)。

 副次評価項目である90日時のmRSスコアは0/1(36.5 vs. 36.9%、p=0.87)、同≦2(52.4 vs. 52.8%、p=0.88)、NIHSSスコア中央値(3 vs. 3、p=0.28)、総合的回復がexcellent(p=0.76)、good(p=0.56)にも有意な差はなかった。

 一方、重篤な有害事象(51.2 vs. 50.1%、p=0.67)、症候性頭蓋内出血(2.1 vs. 3.3%、p=0.12)、死亡(15.4 vs. 15.5%、p=0.95)の発生率も両群で同等であった。

 著者は、「超急性期の脳卒中が疑われる患者に対する硫酸マグネシウムの病院到着前投与のベネフィットは確認できなかった」と結論し、「薬剤の投与は、これまでのどの試験よりも迅速に行われ、患者の約4分の3で“golden hour”と呼ばれる発症後60分以内に治療が開始されており、救急車内での超急性期治療の可能性というシステムに関する目的は達成された」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 中川原 譲二( なかがわら じょうじ ) 氏

梅田脳・脊髄・神経クリニック 脳神経外科

J-CLEAR評議員