スイス・ローザンヌ大学のKatrin Mannik氏らは、一般集団を対象にヒト遺伝子のコピー数多型(copy number variations:CNV)と認知表現型(Cognitive Phenotypes)の関連を調べた。CNVと知的障害に関するような表現型との関連は、これまでほとんどが臨床的に確認された集団コホートにおいて評価されたものであった。研究グループは、臨床的プリセレクションのない成人キャリアにおけるCNVによる臨床的特性と既知の症候群との関連を調べ、また一般集団において、頻度やサイズがまれなCNVキャリアの学業成績(educational attainment)におけるゲノムワイドな影響と、知的障害の有病率を調べた。JAMA誌2015年5月26日号掲載の報告より。
エストニアコホート7,877例で評価
検討は、エストニアの住民ベースのバイオバンクに、2002~2010年にかけて参加登録された5万2,000例を対象に行われた。
一般医(GP)が被験者の検診や、健康および生活習慣関連の質問アンケート記入を行い、診断を報告した。
CNV解析は無作為に抽出したサンプル7,877例(エストニアコホート)について行い、遺伝子型表現型と教育、疾患特性との関連を評価した。結果は、エストニア人993例の高機能群のほか、地理的に異なる英国、米国、イタリアの3つの国の住民コホートで再現した。
主要評価項目は、一般集団における遺伝的障害の表現型、常染色体CNVの有病率、これらの異型と学業成績(初等教育未満レベルの1から大学院レベルの7までで評価)との関連、知的障害の有病率であった。
一般集団で10.5%が知的障害や低学業成績と関連するCNVキャリア
エストニアコホート7,877例のうち、既知の症候群と関連したCNVキャリア56例が特定された。その表現型には、認知および精神医学的な問題、てんかん、神経障害、肥満、先天奇形などが含まれ、臨床コホートで確認された同一の再編成キャリアと類似したものであった。
希少なCNV(頻度0.05%以下、サイズ250kb以上)のゲノムワイド評価により、一般集団のうち831例(10.5%)が同キャリアであることが特定された。
エストニアコホートにおける知的障害の有病率は114/6,819例(1.7%)であった。これに対して、サイズ250kb以上の欠損キャリアの同有病率は11/216例(5.1%)(オッズ比[OR]:3.16、95%信頼区間[CI]:1.51~5.98、p=1.5e-03)、1Mb以上の重複キャリアは6/102(5.9%)(OR:3.67、95%CI:1.29~8.54、p=0.08)であった。
また平均学業成績は、250kb以上の欠損キャリアの評価対象248例では3.81(p=1.06e-04)、1Mb以上の重複キャリア115例では3.69(p=5.024e-05)であった。高校を卒業していなかった者は、欠損キャリアは33.5%(OR:1.48、95%CI:1.12~1.95、p=0.05)、重複キャリアは39.1%(同:1.89、1.27~2.8、p=1.6e-03)であった。
まれなCNVと学業成績が低いことの関連に関するエビデンスは、イタリア、米国の成人コホートおよび英国の青年コホートの分析でも裏付けられた。
結果を踏まえて著者は、「非選択的で健康である成人集団において、既知の病原性CNVは、未確認の臨床的な後遺症と関連している可能性が示唆された。さらに、まれだが一定数が有している中程度サイズのCNVは、ネガティブな学業成績と関連していることが示唆された」と述べ、「所見が追加集団でも再現されたことは、遺伝研究や臨床的な治療、公衆衛生において同様の観察が重要であることを示すものである」とまとめている。
(武藤まき:医療ライター)