心肺バイパスを要する待機的心臓手術において、遠隔虚血プレコンディショニング(RIPC)を行っても、臨床転帰は改善しないことが示された。ドイツ・フランクフルト大学病院のPatrick Meybohm氏らが、約1,400例を対象に行った多施設共同前向き無作為化二重盲検試験の結果、報告した。心臓手術患者へのRIPCにより、虚血・再灌流傷害バイオマーカーの低下が報告されていたが、臨床転帰については不明なままだった。NEJM誌2015年10月8日号(オンライン版2015年10月5日号)掲載の報告。
プロポフォール静注による全身麻酔下でRIPC
研究グループは、プロポフォール静注による全身麻酔下で、心肺バイパスを要する待機的心臓手術を受ける成人患者1,403例を対象に試験を行った。被験者を無作為に2群に分け、一方の群には上肢にRIPCを、もう一方には偽処置を行い、それぞれのアウトカムを比較した。
主要評価項目は、退院時までの死亡、心筋梗塞、脳卒中、急性腎不全の複合エンドポイントだった。副次評価項目は、主要評価項目それぞれ、および90日後までの主要評価項目の発生などだった。
主要・副次評価項目のいずれも両群で有意差なし
被験者のうち、分析の対象となったのはRIPC群692例、偽処置群693例の合わせて1,385例だった。
主要評価項目の発生率は、RIPC群14.3%(99例)、偽処置群14.6%(101例)と同程度だった(p=0.89)。
また、主要評価項目の各項目の発生率も、死亡がそれぞれ1.3%と0.6%(p=0.21)、心筋梗塞が6.8%と9.1%(p=0.12)、脳卒中が2.0%と2.2%(p=0.79)、急性腎不全が6.1%と5.1%(p=0.45)と、いずれも有意差はなかった。
さらに、トロポニン放出量、人工呼吸器の使用期間、ICU入室または入院期間、心房細動の新規発生率、術後せん妄の発生率についても、両群で有意な差は認められなかった。
なお、RIPC関連の有害事象の発生は報告されていない。
(當麻 あづさ:医療ジャーナリスト)