急性冠症候群(ASC)疑いで受診するも退院可能であった心臓イベント低リスク患者のうち、約3分の2の患者の高感度心臓トロポニン値Iが低値(血漿中濃度5ng/L未満)であったことが確認された。英国・エディンバラ大学のAnoop S V Shah氏らが、6,304例について行った前向きコホート研究の結果、報告した。ASC疑いは緊急入院の理由として最も多く、医療の大きな負担となっている。そのため即時退院が適切な低リスク患者を特定する戦略が、大きな有益性をもたらすとして検討されている。今回の結果を踏まえて著者は、「高感度トロポニン値Iを評価するというアプローチは、入院を大きく減らし、患者と医療従事者双方に大きなベネフィットをもたらすと思われる」とまとめている。Lancet誌オンライン版2015年10月7日号掲載の報告。
30日時点の心筋梗塞、心臓死の陰性適中のトロポニン値を調査
検討は、スコットランドの4つの第2次および第3次医療提供病院を受診したASC疑いの連続患者6,304例を対象に行われた。
受診時に高感度心臓トロポニンI検査で血漿中濃度を測定。抽出コホート(4,870例)と検証コホート(内的および外的検証コホートの2つで1,434例)それぞれで、主要アウトカム陰性適中のトロポニン値を調べた。主要アウトカムは、30日時点の心筋梗塞またはその疑い例もしくは心臓死であった。
5ng/L未満患者61%、陰性適中率は99.6%
抽出コホート4,870例のうち、心筋梗塞を発症したのは782例(16%)。心筋梗塞再発は32例(1%)、心臓死は75例(2%)であった。
受診時に心筋梗塞を有していなかった患者において、トロポニン値が5ng/L未満だった患者は2,311/3,799例(61%)であり、主要アウトカムの陰性適中率は99.6%(95%信頼区間[CI]:99.3~99.8%)であった。
同様の陰性適中率が、年齢、性別、リスク因子、心血管疾患既往歴により層別化した全群で認められた。
検証コホートでトロポニン値が5ng/L未満だった患者は594/1,061例(56%)であり、陰性適中率は99.4%(95%CI:98.8~99.9%)であった。
また、トロポニン値5ng/L未満だった患者は、1年時点の心筋梗塞および心臓死のリスクも有意に低かった(対5ng/L以上患者との発生率比較:0.6% vs.3.3%、補正後ハザード比:0.41、95%CI:0.21~0.80、p<0.0001)。
(武藤まき:医療ライター)