多面的転倒予防プログラムの導入で、転倒アセスメントツールの活用や予防的介入の増加など好ましい変化は生じたものの、通常ケアと比較して転倒や転倒による外傷の発生頻度は減少せず、転倒予防効果は認められなかった。オーストラリア・モナシュ大学のAnna L Barker氏らが、同国6病院の急性期病棟で、多面的転倒予防プログラム「6-PACKプログラム」の効果を評価するクラスター無作為化比較試験を行い、報告した。結果を踏まえて著者は、6-PACKプログラムに含まれていない、せん妄予防に焦点を当てた介入の必要性を示唆するとともに、「急性期病棟での転倒予防プログラムの効果を示す質の高いエビデンスはなく、院内での転倒問題に関する新たな解決策を早急に確立する必要がある」とまとめている。BMJ誌オンライン版2016年1月26日号掲載の報告。
「6-PACKプログラム」 vs.通常ケアを1年間実施し転倒発生を比較
6-PACKプログラムは、とくに急性期病院のために作成された、9項目から成る転倒リスクアセスメントツールと、6種類の介入(“転倒注意”の表示、入浴時の患者管理、手の届く範囲内での歩行補助具確保、排泄管理、超低床ベッド使用、ベッド/椅子からの離床センサー使用)のうち1つ以上の個別的介入を行う看護師主導の転倒予防プログラムである。
研究グループは、6病院24の急性期病棟(内科病棟16、外科病棟8)を、6-PACKプログラム実施病棟(介入群)と通常ケア実施病棟(対照群)に無作為に割り付け、2012年1月から13年3月にかけて、入院した全患者にそれぞれの割り付けケアを実施した。通常ケアには、6-PACKプログラムの一部や他の介入(滑らない靴下、患者常時見守り、転倒ハイリスク者識別リストバンドの使用など)が含まれた。
主要評価項目は、転倒および転倒による外傷の発生頻度とした。
6-PACKプログラムの導入による両群間の差は認めず
試験期間中、計4万6,245件の入院があった(同一患者で複数回の入院あり、患者数は3万1,411例)。介入群(2万2,670件)と対照群(2万3,575件)で、患者背景(介入群の年齢中央値68歳、80歳以上26.5%、女性50.6%、緊急入院81.2%、認知障害8.0%など)および在院日数(同中央値4日)に差はなかった。
6-PACKプログラム構成項目の使用頻度は、介入群が対照群より3倍高かった(発生率比[IRR]:3.05、95%信頼区間[CI]:2.14~4.34、p<0.001)。
総計で、転倒は1,831件、転倒による外傷(打撲傷、擦過傷、裂傷、骨折など)は613件。転倒の発生頻度(件/1,000ベッド日)は、介入群7.46(7.00~7.50)、対照群7.03(6.59~7.51)、転倒による外傷の発生頻度はそれぞれ2.33(2.07~2.83)、2.53(2.26~2.82)であり、いずれも発生率比について群間差は認められなかった(転倒;IRR:1.04、0.78~1.37、p=0.796、転倒による外傷;IRR:0.96、0.72~1.27、p=0.766)。
(医学ライター 吉尾 幸恵)