プライマリケア診療所に対し、専門家によるリスクの高い処方に関する教育や、処方の見直しが必要な患者について医師に通知する情報システム、さらにそうした処方の見直しに対する金銭的インセンティブを与えるという複合的介入で、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や抗血小板薬に関する高リスク処方が4割ほど減り、関連する入院の発生も減少したという。スコットランド・ダンディー大学のTobias Dreischulte氏らが、34ヵ所のプライマリケア診療所を対象に行ったクラスター無作為化試験の結果、明らかにした。NEJM誌2016年3月17日号掲載の報告より。
NSAIDsと抗血小板薬に関する9つの高リスク処方発生率を比較
研究グループは、スコットランドのテイサイド州で、34ヵ所のプライマリケア診療所(医師が所有する)を対象に、ステップウェッジ・デザインの無作為化試験を行った。試験対象の診療所に対しては、48週間にわたり、(1)薬剤師など専門家による教育(開始時に1時間受講)、その後8週ごとにレターなどが送付、(2)電子カルテから処方の見直しが必要な患者データを特定するなどの情報システムによる支援、(3)高リスク処方について見直しを行った際に支払う金銭的インセンティブ(初回固定額として600ドル、見直した患者ごとに25ドル;フルタイム医師当たり平均収入の約0.6%に相当する平均約910ドルの支払いを見込んだ)をそれぞれ提供した。
主要評価項目は、NSAIDsと抗血小板薬に関する次の9つの高リスク処方の複合だった。(1)消化管潰瘍患者に胃粘膜保護薬処方なしでNSAIDまたはアスピリン処方、(2)75歳以上患者に胃粘膜保護薬処方なしでNSAID処方、(3)65歳以上患者に胃粘膜保護薬処方なしでNSAID処方、(4)65歳以上・アスピリン服用患者に胃粘膜保護薬処方なしでクロピドグレル処方、(5)経口抗凝固薬服用患者に胃粘膜保護薬処方なしでNSAID処方、(6)経口抗凝固薬服用患者に胃粘膜保護薬処方なしでアスピリンまたはクロピドグレル処方、(7)RAS阻害薬と利尿薬服用患者にNSAID処方、(8)慢性腎臓病患者にNSAID処方、(9)心不全歴あり患者にNSAID処方。
副次評価項目は、処方関連の入院などだった。解析は、intention-to-treatを原則とし、混合効果モデルを用いてクラスターデータを評価した。
消化管潰瘍・出血による入院も3割強減少
試験を完了した33診療所を包含し、介入前の対象患者3万3,334例と、介入後の対象患者3万3,060人について分析を行った。
その結果、事前に規定した高リスク処方(あらゆるリスクを有した患者)の発生率は、介入直前の3.7%(2万9,537例中1,102例)から、介入終了時の2.2%(3万187例中674例)へと4割程度減少した(補正後オッズ比:0.63、95%信頼区間[CI]:0.57~0.68、p<0.001)。
また、消化管潰瘍や消化管出血による入院も、介入前の55.7件/1万患者年から介入期間中の37.0件/1万患者年へと、有意に減少した(率比:0.66、95%CI:0.51~0.86、p=0.002)。心不全による入院も、707.7件/1万患者年から513.5件/1万患者年へと、有意に減少した(率比:0.73、95%CI:0.56~0.95、p=0.02)。
一方、急性腎障害による入院は、101.9件/1万患者年から86.0件/1万患者年へと、有意な減少は認められなかった(率比:0.84、95%CI:0.68~1.09、p=0.19)。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)