ixmyelocel-T細胞療法は、虚血性拡張型心筋症に起因する駆出率が低下した心不全患者の転帰を改善することが、米国・ユタ大学のAmit N Patel氏らが行ったixCELL-DCM試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2016年4月4日号に掲載された。ixmyelocel-Tは、選択的に増殖させた患者骨髄由来の2種の単核細胞(CD90陽性間葉系幹細胞、CD45陽性/CD14陽性/自家蛍光陽性の活性化マクロファージ)を用いた細胞療法である。初期の臨床試験において、虚血性拡張型心筋症による心不全患者に心筋内投与し、臨床、機能、症状、QOLの転帰を改善する可能性が示唆されている。
126例を対象にプラセボと比較する無作為化第IIb相試験
ixCELL-DCM試験は、駆出率が低下した心不全患者におけるixmyelocel-T細胞療法の安全性と有効性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化第IIb相試験(Vericel社の助成による)。
対象は、年齢30~86歳、虚血性拡張型心筋症によりNYHA心機能分類III/IV度の心不全を来し、左室駆出率≦35%、植込み型自動除細動器(AICD)を装着した患者であり、再血行再建術を受けた患者は除外した。
被験者は、カテーテルを用いてixmyelocel-Tを経心内膜注入する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられ、12ヵ月のフォローアップが行われた。治療割り付け情報は、薬剤師、治療医、コーディネーターにはマスクされなかったが、フォローアップを行う医療チームは完全な盲検とされた。
主要評価項目は、全死因死亡、心血管疾患による入院、急性非代償性心不全の複合エンドポイントとし、独立の臨床審査委員会が判定を行った。
2013年4月2日~15年1月28日までに、北米の31施設に126例(ixmyelocel-T群:60例、プラセボ群:66例)が登録され、それぞれ58例、51例が有効性のper-protocol解析の対象となった。
複合エンドポイント、重篤な有害事象が有意に良好
ベースラインの平均年齢は、ixmyelocel-T群が65.3(8.49 SD)歳、プラセボ群は64.7(9.94 SD)歳で、女性がそれぞれ5.2%、11.8%含まれた。
1年間に、全体で47例に複合エンドポイントが発生した。ixmyelocel-T群の発生率は38%(22/58例、イベント数:38件)であり、プラセボ群の49%(25/51例、イベント数:50件)に比べ有意に低かった(リスク比:0.63、95%信頼区間[CI]:0.42~0.97、p=0.0344)。
副次評価項目であるwin ratio(p=0.1391)および臨床的心血管イベントの初回発生までの期間(p=0.1667)に有意な差はみられなかった。
左室収縮末期容積(LVESV)、左室拡張末期容積(LVEDV)、左室駆出率で評価した左室内腔サイズの構造的変化にも、全体として有意な差は認めなかった。
また、6分間歩行距離およびNYHA心機能分類はいずれも、両群とも経時的に改善する傾向がみられ、1年時に有意な差はなかった(それぞれp=0.9303、p=0.8689)。
治療関連有害事象の発生率は、ixmyelocel-T群が20%(12/59例)と、プラセボ群の42%(23/55例)に比べ有意に良好であった(p=0.0154)。また、重篤な有害事象の発生率は、ixmyelocel-T群が53%(31/59例)であり、プラセボ群の75%(41/55例)に比し有意に少なかった(p=0.0197)。
著者は、「ixmyelocel-Tは、適切な薬物療法がないNYHA心機能分類III/IV度の虚血性うっ血性心不全患者に対する細胞療法の選択肢となる可能性がある」とまとめ、「患者自身の細胞を用いた生物学的製剤は、今後、うっ血性心不全の管理において大きな可能性を有すると考えられる」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)