禁煙補助薬バレニクリン(商品名:チャンピックス)およびbupropionは、プラセボやニコチンパッチと比べ、精神神経系有害事象リスクの有意な増大は認められないことが示された。被験者に精神疾患の既往があっても同リスクは増大せず、また、バレニクリンはプラセボ、ニコチンパッチ、bupropionのいずれと比べても、禁煙達成率が高かった。米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のRobert M. Anthenelli氏らが、禁煙希望の喫煙者8,144例を対象に行った大規模臨床試験「EAGLES」(Evaluating Adverse Events in a Global Smoking Cessation Study)の結果、明らかにした。バレニクリンやbupropionの禁煙補助薬の精神神経系への安全性に関する懸念は払拭されていない。これまでに行われたニコチンパッチとの比較検討は間接的な試験であり、安全性、有効性に関する情報は精神疾患を有する患者に限られていた。Lancet誌オンライン版2016年4月22日号掲載の報告。
不安症、うつ病、異常感など精神神経系リスクの発生率を比較
研究グループは、2011年11月~15年1月にかけて、16ヵ国、140ヵ所の医療機関を通じて、禁煙を希望する喫煙成人8,144例を対象に、無作為化プラセボ対照二重盲検試験を行った。被験者を精神疾患歴のある群(4,116例)と非既往群(4,028例)に分け、そのうえで、それぞれを無作為に4群に分け、バレニクリン(1日2回、1回1mg)、bupropion(1日2回、1回150mg)と、そのコントロール群としてニコチンパッチ(1日21mgで開始し漸減)、プラセボを投与した。
主要エンドポイントは、不安症、うつ病、異常感など精神神経系有害事象の複合とした。また、主要有効性エンドポイントは、9~12週の生化学的に確認された禁煙とした。
9~12週の禁煙、対プラセボのバレニクリンのオッズ比は3.61
結果、精神疾患の非既往患者では、主要複合エンドポイントの発生率は、バレニクリン群が1.3%、bupropion群が2.2%、ニコチンパッチ群が2.5%、プラセボ群が2.4%だった。バレニクリン群対プラセボ群、bupropion群対プラセボ群のリスク差は、それぞれ-1.28(95%信頼区間[CI]:-2.40~-0.15)、-0.08(同:-1.37~1.21)で、いずれも有意差はなかった。
精神疾患既往患者では、主要複合エンドポイントの発生率は、バレニクリン群が6.5%、bupropion群が6.7%、ニコチンパッチ群が5.2%、プラセボ群が4.9%だった。バレニクリン群対プラセボ群、bupropion群対プラセボ群のリスク差は、それぞれ1.59(95%CI:-0.42~3.59)、1.78(同:-0.24~3.81)であり、いずれも有意差はなかった。
9~12週の禁煙率については、バレニクリン群が、対プラセボ群、対ニコチンパッチ群、対bupropion群でみた場合、いずれも有意に高率で、オッズ比(OR)はそれぞれ、3.61(95%CI:3.07~4.24)、1.68(同:1.46~1.93)、1.75(同:1.52~2.01)だった(いずれもp<0.0001)。
また、対プラセボ群でみた場合、bupropion群(OR:2.07、95%CI:1.75~2.45)、ニコチンパッチ群(同:2.15、1.82~2.54)も禁煙率はそれぞれ有意に高率だった(いずれもp<0.0001)。
コホート全体で治療群単位でみた最も頻度の高い有害事象は、悪心(バレニクリン群25%)、不眠(bupropion群12%)、異常な夢(ニコチンパッチ群12%)、頭痛(プラセボ群10%)だった。治療群間の有効性は、コホート全体の解析でも違いはみられなかった。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)