日本人膵がん患者の切除後の補助化学療法は、S-1が標準治療となりうることが示された静岡県立静岡がんセンターの上坂克彦氏らによる「JASPAC-01」の結果が、Lancet誌オンライン版2016年6月2日号に掲載された。本検討においてゲムシタビンに比べS-1補助化学療法により死亡リスクが約4割低下することなどが示された。膵がん術後の補助化学療法はゲムシタビンが標準治療とされているが、今回の試験では、死亡リスクについてS-1のゲムシタビンに対する非劣性のみならず優越性も示された。
385例の患者を対象に試験
「JASPAC-01」は、日本人を対象に行われた無作為化非盲検多施設共同のフェーズ3試験。2007年4月1日~2010年6月29日にかけて、日本国内33ヵ所の医療機関で、組織学的に確認された切除可能な浸潤性膵管がんで、病理学的にStageI~III、肉眼的に完全切除され顕微鏡による残存腫瘍が認められない20歳以上の患者385例を対象に行われた。
研究グループは切除後に被験者を無作為に2群に分け、一方の群にはゲムシタビン(4週1サイクルとし1,000mg/m
2を1、8、15日目に投与を6サイクル、193例)を、もう一方の群にはS-1(6週1サイクルとし体表面積に応じて40、50、60mg/回・1日2回を1~28日連続投与を4サイクル、192例)を、それぞれ投与した。
主要評価項目は、全生存期間。評価はper-protocol集団で、不適格患者および割り付け治療を受けなかった患者を除外して行った。また、S-1の非劣性が確認された場合、log-rank検定で全生存期間に関するS-1の優越性も検討することが事前規定のプロトコルとされていた。
全生存および無再発生存期間は、Kaplan-Meier法を用いて算出し、S-1のゲムシタビンに対する非劣性は、Cox比例ハザードモデルを用いて評価。死亡予想ハザード比(HR)は0.87で非劣性マージンは1.25(検出力80%:片側タイプ1エラー2.5%)とした。
死亡に関するS-1群のゲムシタビン群に対するハザード比は0.57
無作為化を受けた被験者のうち、不適格3例、治療を受けなかった5例を除く、ゲムシタビン群190例、S-1群187例が解析対象となった。試験は2012年9月、独立データ・安全モニタリング委員会の勧告を受け、中間解析による有効性が事前に規定した早期終了基準に適合したため、すべての治療プロトコルが終わった時点で終了となった。
2016年1月15日までの追跡データを解析した結果、5年全生存率はゲムシタビン群24.4%(95%信頼区間[CI]:18.6~30.8)に対し、S-1群は44.1%(同:36.9~51.1)と高率で、死亡ハザード比は0.57(同:0.44~0.72)であった(非劣性に関するp<0.0001、優越性に関するp<0.0001)。
Grade3または4の白血球減少症、好中球減少症、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼの増加は、ゲムシタビン群でより高率に認められた。一方でS-1群でより高率にみられたのは、口内炎、下痢であった。
今回の結果について著者は、「結果について、非アジア人の患者で評価を行うべきである」とまとめている。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)