1988~2014年の26年間に、米国の糖尿病の成人患者における糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease:DKD)の有病率には有意な変化はなかったが、アルブミン尿は有意に低下し、推定糸球体濾過量(eGFR)低下は有意に増加したことが、米国・ワシントン大学のMaryam Afkarian氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌2016年8月9日号に掲載された。DKDは、糖尿病患者で持続的アルブミン尿、持続的eGFR低下あるいはその双方がみられる場合と定義される。以前は、進行性のアルブミン尿に続いてeGFR低下が発現するとされたが、最近では、アルブミン尿の発現前または発現なしにeGFRが低下する例が多く、人口動態や治療の変化の影響が示唆されている。
6,000例以上の糖尿病患者で腎臓病症状の経時的変化を調査
研究グループは、米国の糖尿病の成人患者における腎臓病の臨床症状の経時的な変化の特徴を検討するために連続的な断面研究を行った(米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所[NIDDK]などの助成による)。
1988~2014年に米国国民健康・栄養調査(NHANES)に参加した20歳以上の糖尿病患者を解析の対象とした。糖尿病は、HbA1c≧6.5%、血糖降下薬(インスリン製剤、経口血糖降下薬)の使用、またはその双方と定義した。
主要評価項目として、アルブミン尿(尿中アルブミン/クレアチニン比[UACR]≧30mg/g)、顕性アルブミン尿(UACR≧300mg/g)、eGFR低下(<60mL/分/1.73m
2)、重度eGFR低下(<30mL/分/1.73m
2)の評価を行った。
糖尿病患者6,251例(1988~94年:1,431例、1999~2004年:1,443例、2005~08年:1,280例、2009~14年:2,097例)のデータを解析した。
2008年は有意でなかったアルブミン尿の有病率が、有意に低下
DKDの有病率は、1988~94年が28.4%(95%信頼区間[CI]:23.8~32.9%)、2009~14年は26.2%(95%CI:22.6~29.9%)であり、経時的な変化に有意な差はなかった(年齢、性別、人種/民族で補正した有病率比:0.95、95%CI:0.86~1.06、傾向検定:p=0.39)。
一方、アルブミン尿の有病率は1988~94年の20.8%(95%CI:16.3~25.3%)から2009~14年には15.9%(95%CI:12.7~19.0%)へと有意に低下した(補正有病率比:0.76、95%CI:0.65~0.89、傾向検定:p<0.001)。
これに対し、eGFR低下の有病率は1988~94年の9.2%(95%CI:6.2~12.2%)から2009~14年には14.1%(95%CI:11.3~17.0%)へと有意に増加した(補正有病率比:1.61、95%:1.33~1.95、傾向検定:p<0.001)。また、重度eGFR低下にも同様のパターンが認められた(補正有病率比:2.86、95%:1.38~5.91、傾向検定:p<0.004)。
このアルブミン尿の時間的傾向の有意な異質性(heterogeneity)は、年齢(交互作用検定:p=0.049)および人種/民族(交互作用検定:p=0.007)で顕著であり、アルブミン尿の有病
率の低下は65歳未満および非ヒスパニック系白人のみで観察された。これに対し、eGFR低下の有病率の増加には年齢、人種/民族による有意な差を認めなかった。
前述のように、2009~14年に糖尿病の成人患者の26.2%がDKDの基準を満たしたが、これは約820万例(95%CI:650~990万)に相当し、このうちアルブミン尿は460万例、顕性アルブミン尿は190万例、eGFR低下は450万例、重度eGFR低下は90万例であった。
著者は、「以前に、1988~2008年のデータを解析した時点では、eGFR低下の有病率は有意に増加したが、アルブミン尿の有病率には有意な変化は認めなかった。今回の2014年までのデータでは、eGFR低下の持続的な増加に加え、アルブミン尿の経時的に有意な低下が示された」としている。
(医学ライター 菅野 守)