イングランドおよびウェールズにおいて、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)で入院した患者の全死亡率は2003年から2013年に改善していることが確認された。この改善は、冠動脈侵襲的治療の実施と有意に関連しており、ベースラインの臨床リスク減少や薬物療法の増加とはまったく関連していなかったという。英国・リーズ大学のMarlous Hall氏らが、Myocardial Ischaemia National Audit Project(MINAP)のデータを用いたコホート研究の結果、報告した。急性冠症候群後の死亡率は世界的に低下しているが、この低下がガイドラインで推奨されたNSTEMIの治療とどの程度関連しているかは不明であった。JAMA誌オンライン版2016年8月30日号掲載の報告。
NSTEMI患者約40万人のデータを解析
研究グループは、MINAPデータのうち、2003年1月1日~2013年6月30日にイングランドおよびウェールズの247病院に入院した18歳以上のNSTEMI患者38万9,057例(年齢中央値72.7歳[四分位範囲:61.7~81.2]、男性63.1%)について解析した。データには、ベースラインのGRACEリスクスコア、患者背景、併存疾患、退院時の薬物療法(アスピリン、β-ブロッカーなど)、冠動脈侵襲的治療の使用などが含まれ、死亡データは国家統計局を介して得た。
主要評価項目は、退院後180日の補正後全死因死亡率の年次推移(パラメトリック生存分析を用いて推定)であった。
10年間でNSTEMI患者の死亡率は低下、冠動脈侵襲的治療と関連
NSTEMI患者38万9,057例中、追跡期間中に11万3,586例(29.2%)が死亡した。
2003~2004年に比べ2012~2013年では、GRACEリスクスコアの中/高リスク(≧88)の患者の割合が減少し(87.2% vs.82.0%)、最低リスク(<70)の割合は増加した(4.2% vs.7.6%、傾向のp=0.01)。糖尿病・高血圧・脳血管疾患・慢性閉塞性肺疾患・慢性腎不全の有病率、冠動脈侵襲的治療歴、喫煙歴の割合も増加した(すべてp<0.001)。
180日時点の補正前全死因死亡率は、10.8%から7.6%に減少した(未補正ハザード比[HR]:0.968、95%信頼区間[CI]:0.966~0.971、絶対死亡率[患者100例当たり]の差:-1.81、95%CI:-1.95~-1.67)。この結果は、以下のベースライン項目を1つずつ補正してみた場合には大きな変化はなかった。(1)「GRACEリスクスコアのみ」(HR:0.975[95%CI:0.972~0.977]、絶対死亡率の差:-0.18[95%CI:-0.21~-0.16])、(2)「(1)+性別および社会経済的状況」(0.975[0.973~0.978]、-0.24[-0.27~-0.21])、(3)「(2)+併存疾患」(0.973[0.970~0.976]、-0.44[-0.49~-0.39])、(4)「(3)+退院時の薬物療法」(0.972[0.964~0.980]、-0.53[-0.70~-0.36])。
しかし、(4)にさらに冠動脈侵襲的治療について加味した場合は、関連性が逆転を示した(1.02[1.01~1.03]、0.59[0.33~0.86])。すなわち2003~2004年から2012~2013年における死亡率の減少に、冠動脈侵襲的治療が、ベースラインのリスク低下や併存疾患の増加、ガイドラインで示す薬物療法の使用よりも寄与していることが確認された。冠動脈侵襲的治療により、相対的な死亡率低下は46.1%(95%CI:38.9~52.0%)であった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)