腹部大動脈瘤の治療において、ステントグラフト内挿術(EVAR)は外科的人工血管置換術(open repair)に比べ、早期の生存ベネフィットをもたらすものの長期生存は劣ることが、英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのRajesh Patel氏らが進めるEVAR trial 1で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2016年10月12日号に掲載された。すでに、合併症のない腹部大動脈瘤へのEVARはopen repairに比べ、短期的な生存ベネフィットが優れることが無作為化試験で確認されているが、この早期の生存ベネフィットは数年で失われることが知られている。
1,200例以上の長期フォローアップの解析結果
EVAR trial 1は、腹部大動脈瘤におけるEVARとopen repairの有用性を比較する無作為化対照比較試験(英国国立健康研究所などの助成による)。今回は、平均フォローアップ期間12年以上の解析結果が報告された。
対象は、年齢60歳以上、CT画像で直径が5.5cm以上の腹部大動脈瘤がみられ、EVARまたはopen repairの適応と判定された患者であった。1999年9月1日~2004年8月31日に、英国の37施設に1,252例が登録され、EVAR群に626例、open repair群にも626例が割り付けられた。
主要評価項目は、intention-to-treat集団における2015年半ばまでの全死亡および動脈瘤関連死とした。
8年以降の死亡が有意に不良、がん死も増加
2015年6月30日までに、25例がフォローアップできなくなった。再インターベンションは25例(EVAR群:5例、open repair群:20例)で行われた。平均フォローアップ期間は12.7年(SD 1.5、最長15.8年)であった。
ベースラインの背景因子は、両群間に差はなかった。全体の平均年齢は74歳で、1,135例(91%)が男性であった。
全死亡の割合は、EVAR群が100人年当たり9.3件、open repair群は8.9件/100人年であり、両群に有意な差を認めなかった(補正ハザード比[HR]:1.11、95%信頼区間[CI]:0.97~1.27、p=0.14)。動脈瘤関連死にも差はなかった(1.1 vs.0.9件/100人年、補正HR:1.31、95%CI:0.86~1.99、p=0.21)。
割り付けから0~6ヵ月の死亡は、EVAR群が良好であった(全死亡=補正HR:0.61、95%CI:0.37~1.02、p=0.06、動脈瘤関連死亡=0.47、0.23~0.93、p=0.031)が、平均フォローアップ期間8年以降はopen repair群が有意に優れた(全死亡=補正HR:1.25、95% CI:1.00~1.56、p=0.048、動脈瘤関連死亡=5.82、1.64~20.65、p=0.0064)。
8年以降のEVAR群の動脈瘤関連死の上昇には、主に2次性の動脈瘤囊の破裂が寄与しており(7%[13例] vs.1%[2例])、がん死の増加(補正HR:1.87、95%CI:1.19~2.96、p=0.0072)も観察された。
著者は、「生涯にわたるEVARの調査に取り組み、必要に応じて再インターベンションを行う必要がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)